初代モンハン スロット 設置店

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「ダメよウンディーネ、シズキの体には私が入るわ、貴女はクイーンの中にでも入ってなさい」「え?・・・わ、私はそれでもかまいませんが・・・」ウンディーネは何故メフィが急にそんなことを言い出したのかは知らないが、とりあえず彼女の言う通りにしておくことにした何か自分の知らない約束事でもあったのだろうかと不思議がっていたが、ウンディーネは静希によって一時的にクイーンの中に入れられることになった「・・・何で宿るのを嫌がったんだ?変な奴」「・・・シズキの中に入るのは私が最初が良かったのよ、今までやってこなかったでしょ?」あぁそう言えばそうだったなと、静希は他の人外たちを収納した後でメフィと向き合う思えば人外を体の中に内包するというのは初めてだ、エドやカレンは自然にやっていることだが、いざやるとなるとなかなか緊張する「ていうかお前表に出ない方がいいって言ってただろ、それはいいのかよ」「シズキの中に最初に入るか他の人に気付かれるか、比べるまでもないわ、シズキの初めては私のものよ」嫌な言い方をするなと静希は眉間にしわを寄せながらメフィの方を見る初めてというと一種の痛みのようなものがあるような気がしてならないのだ、静希だって痛いのは嫌なのである「一応聞いておくけど、痛くはないよな?」「それは大丈夫よ・・・まぁ違和感はあるでしょうけどね」メフィがゆっくりと静希と体を重ねるようにしてその内部に侵入していく違和感メフィはそう言ったが、確かに妙な感覚が静希の中に生じていた、自分以外の存在を自分の内側から感じる人外の気配、そう言った類のものを感じ取れる静希にとってそれは強烈な違和感だったなにせ自分の体の中から人外の気配がするのだ、普段から一緒にいるメフィではあるがそれが自分の内側にいるとなるとその違和感は生半可なものではない『どうかしらシズキ、自分の体の中に入られる気分は』どうやらトランプとは別に、こうして宿主と会話することができるようだ、なるほどこれがエルフ達が普段味わっている精霊との会話という事だろう、今までのトランプの会話に近い感じだが、聞こえてくる場所が違う気がする『あぁ・・・妙な気分だ、歯の間になんかが挟まってるような感じ』『嫌な表現ね・・・まぁいいわ、トランプの換装が終わるまではこの状態よ』静希のスペードの中に入っているのは水素を用いた水圧カッターだ、今この場で入れ替えを行ってもいいのだが漏れ出た水素を吸い込んでしまったりすることもある、入れ替えを行うにはまず完全な密室状態と低温状態を作るしかないトランプの間をほぼゼロにすれば消耗は抑えられるが、周囲の温度に触れて液体が気体にならないとも限らないのだなにせ水素は超低温でしか液体の状態を保てない、真空状態にすれば運動エネルギーの減衰も温度の変異もないだろうが現状では百%のトランプの入れ替えはできない、少々面倒ではあるがこればかりは仕方ないだろうせっかく鏡花が面倒な工程を踏まえて作り直してくれた水圧カッターだ、ここで無駄に消費するのだけは避けたいところである『なるほど、トランプの内部同士であれば会話も可能なのですね』『そういう事だ、まぁ世間話でもして仲良くしててくれ』どうやらウンディーネはもうすでにトランプの中に慣れ始めているのだろう、いい傾向だと思いながらも静希はどうしたものかと頭を痛めていたなにせ体の中にメフィがいるという状況はあまりいいとは言えない、なにせ他の契約者がいた場合、その気配をたどられる可能性があるのだ今は黒い歪みの放つ気配のおかげで、人外の気配自体を感じ取りにくくなってはいるものの、他の人間が静希の変化に気付かないとも限らないなにせ今まではなっていなかった人外の気配を静希が放つようになっているのだから『・・・なんか肩凝るような感じだなこれ、お前としてはどうなんだ?俺の中とやらは』『悪い気分じゃないわ、でもやっぱり人間の体の中は窮屈ね、トランプの中の方がずっと快適よ』以前も人間の体の中は窮屈だと言っていたが、自分の体の中の様子を言われるというのもなんというか奇妙な感覚である普段静希は人外たちをトランプの中に入れているために体の中に人外を入れるという事は基本してこなかったそのせいか強い違和感と存在感を体の中から感じるために、異物感が否めない『もしかしてこの状態であればダイレクトに魔素を注ぐことができるのか?』『できるわよ?でも乱発はしないようにね、外に出てる時と比べると精密なコントロールは期待できないわ』元より魔素や能力の細かな制御を苦手としているメフィではあるが、静希に魔素を注ぐ時は特に細心の注意を払って行っていた静希自身の魔素許容量が少ないために、ほんのわずかに注入する魔素が増えると静希の体が余計に奇形化してしまうためである適量を注ぎ込めば負担の少ない少量の奇形化で済むが、その為にはメフィ自身も集中できる状況が必要なのだろう本当に厄介だなと自分の体の『弱さ』を自覚しながら静希はため息をつく弱さを自覚しているからこそこういう戦い方しかできないのだが、これももはや今さらというものだろうさてどうしたものか顔を洗うだけのつもりだったのにいつの間にかこんな面倒事を引き寄せてしまった、相変わらず自分は人外との何かしらの縁があるのかもしれないメフィと関わってから一年弱、出会った人外はそろそろ二桁に届こうとしているまったくもって不本意ではあるが、もう自分はこういう星の下に生まれてきているのだなと認めるほかないだろう「あれ?随分と早起きだね・・・どこか行ってきたのかい?」「あ、起こしちゃいましたか・・・すいません、ちょっと顔を洗いに」静希が部屋に戻ってくるとどうやら物音で起こしてしまったのだろうか、大野がゆっくりと起き上り大きく欠伸をしていたもう日が昇り、あたりは明るくなりつつある、すでに動き出している軍の人間もいるだろう、これから本格的に二日目が始まることになるとはいうものの、静希達にとっては二日目でも他の人間にとってはすでに何日も経過していることなのだ、そんな中で静希達ができることは限られる、まずはこの近辺に住んでいるエルフの確認と、テオドールの部下が件の魔素のデータを拝借するのを援護する事だ援護と言ってもたいしたことはできない、静希が盗んだわけではないというアリバイも欲しい、そう考えるとできるのはせいぜいカールの意識を自分に向けさせる程度だろう裏でこそこそ何かを行うのは静希の得意分野ではあるが、それを自分から主導で行わずにサポートに徹しなくてはいけないというのもなかなか不便なものだ、全ての人間の意識を自分に集中させるには、多少荒事を行わないと難しいかもわからない「んん・・・やっぱりまだ体がだるいな・・・一日じゃそう簡単に時差ぼけは治らないか」「まぁそうでしょうね、俺も若干体に違和感があります」違和感があるのは時差ぼけだけが原因ではないのだが、このことは言わない方がいいだろう、この二人はあくまで静希の護衛役としてここにいるのだ、余計な心労を与えるのはよくない新しい人外が増えましたなんてことを言えばそれだけ面倒になるのはわかりきっている、静希の人外事情を知っている人間は数が限られているとはいえ毎度毎度面倒に巻き込むわけにもいかないだろう「とりあえず俺は朝食を終えたら少尉の所に行ってきますけど、大野さんはどうしますか?」「ん・・・わかった、こっちはそれまでに動けるように準備をしておくよ、あまり早く動きすぎないようにしてくれるとありがたいかな」まだ寝起きという事で完全に意識が覚醒していないのだろう、頭をふらふらさせながらもなんとか起きようとしている彼らは表向き静希の護衛という役目ではあるものの、静希の監視という役目も担っているのだ、あまり強くその旨を主張するようなことはしないが、静希はそのことをある程度察していた公になっていないとはいえ、静希は数少ない悪魔の契約者だ、存在するだけで他国にプレッシャーを与えることができる存在と言ってもいいそんな危険人物から目を逸らさないようにする、どこかに逃げないようにする、そう言う意味もどこかに含まれているのだろうもっとも大野と小岩は静希の人柄を少なからず把握しているために、監視というよりは同行といったほうが正確かもしれない彼らの上司の町崎も恐らく同様だろうが、さらにその上にいる人間がどういう反応を示すかは微妙なところだ静希の立場をそのままにして、犯罪を犯すことなく行動する、面倒ではあるが平和的に学生生活を送るためには必要なことだとはいえただでさえ事件の解決法も見いだせず、どうやってこの状況から解放されるか、あるいはどうやってこの事件を管理している人間に情報を伝えるか、考えることもやることも多いとなると非常に面倒だ『シズキ、なんだかざわざわしてるわよ、何考えてるのかしら』『あぁ・・・まぁ今日の行動についてだよ・・・中に入ってるとそう言うのも分かるのか』普段のトランプの中に入れている状態と違い、今は静希の体の中にダイレクトに入っている状態だ、今のメフィが静希の心理状況を把握できても不思議はない『なんとなくだけどね、シズキの心理状態くらいならわかるわ、もっと気楽に考えたらどう?』『それができれば苦労は無いんだけどな・・・ていうかそう言うのを察知されるってのはあれだな、ちょっと気恥ずかしいな』今までは静希が苛立っていたり焦っていたりしてもトランプの中には影響はなかったからこそ知られることもなかったが、今メフィは静希の中にいるなんだか心の中を見透かされているようで少しだけ恥ずかしかった『あら、それなら考えてること全部察したらどんな風になるのかしら、ちょっと楽しみね』『勘弁してくれ、日常生活のプライバシーもないに等しいのに思考の個人情報まで無くなったらどうしたらいいんだよ』常日頃からメフィ達人外と一緒にいるため、静希のプライバシーは現在ないに等しい状況である、ある程度は人外達も察して静希を一人にしてやったりと気を回しているが、それもある程度のものでしかなく実際静希にプライバシーも何もあったものではないのだ自分の個人的な時間だけではなく精神的な自由も無くなるとなると本格的に静希の一人での時間というものは皆無になるだろうこんな状態をずっと続けているエルフやエド達は恐ろしいなと思いながら静希は一種の尊敬の念すら覚えていた精神状態まで察知されるというのは思考することが多い静希からすると厄介極まりない、メフィの発言から察するにある程度の感情の機微程度しか察することはできないのだろうが、もし彼女が全力で静希の感情を察知しようとしたらどうなるかわかったものではない『どうしたのシズキ、またちょっとざわついてるわよ?』『・・・お前が中にいるといろいろと緊張するんだよ、お前外見上はいい女だからな』『心にもないことを言うわね、まぁ嘘でも嬉しいわ』嘘を言ったつもりはないが、メフィは静希の言葉をお世辞のようなものだと受け取ったらしい、実際メフィは『外見上は』美しい女性だ、角と目が普通の人間のそれでないことを除けばの話ではあるが

「なに?この辺りのエルフ?」「あぁ、調べられないか?場所だけでもわかれば俺が実際に見に行く」軍の用意した食料を朝食代わりにし、動けるだけの準備を整えた後で静希はカールの下へとやってきていたウンディーネの証言から、この辺りに仮面をつけた人間が最低でも二人いたのは事実だ、ただ単にここに旅行に来ていたという事も考えられるが、今回の件に無関係であるとは言い切れない最悪でもエルフがここにいたという事実、そしてこの近辺にあるエルフの村を確認しておきたいところだった「エルフか・・・確かにそれは調べて損はないと思うが・・・」召喚というカテゴリーに関していえばエルフはむしろ専門家に当たる、今回のことが召喚に属する事件であることはまだカールは気づいていないだろうが、これほどの事態を起こすのはエルフでなければ難しいという判断はできるだろう多少遠回りではあるがエルフがこの場にいたかどうかくらいの話から進めたほうがいい「なら頼む、これだけのでかいものができてるんだ、人外にしろ何にしろ、エルフが関わっている可能性がないわけじゃない・・・この国の事ならそっちの方が詳しく調べられるだろう?」「・・・わかった、部下に調べさせよう・・・と言ってもエルフの村が見つけられるかどうか・・・」エルフの村は以前行ったことがあるが、石動の村のように山の奥にあり巧妙に隠されている、それを部下の人間が探したところで見つかるかという心配があるのだろう近場で勤務しているエルフに尋ねて所在を明らかにするのが一番手っ取り早いだろうが、自分たちの村の位置をそう易々と教えるとは思えないここは日本ではない、風習的にも文化的にも日本のそれと比べるのはナンセンスかもしれないが比較対象程度にはなるだろう既にほかの人間は大きく動き出している、研究者もそうだが軍の人間も同じように辺りを思い思いに行動している静希はその様子を見ながら小さくため息をつく、この状態ではテオドールの部下が情報を拝借するのは難しいだろう「少尉、先日見せてもらった魔素のデータ、もう一度見せてもらえるか?」「構わないが、どうして?」ここからは静希がある程度囮になって事を行わなければいけない、その為にお膳立てくらいは整えてやるべきだ「あぁ、今日は全力でこの黒いのに攻撃しようと思っててな、魔素が足りるかどうか確認したいんだ」「全力・・・というと、悪魔の・・・?」カールの言葉に静希は小さくうなずく悪魔の攻撃を見ることができるとなればさすがの研究者たちも、そして軍人も静希に注目せざるを得ないだろう、そして攻撃の余波を防ぐためにも軍人の注意はほぼ確実に静希に向くはずだその時間は恐らく魔素の情報などは完全に無防備になる、拝借するには絶好の機会を作り出せると思っていいだろう「全力を出すとなると・・・研究者たちに避難勧告をした方がいいな・・・今すぐに通告はするが・・・恐らく実行できるのは昼頃になるだろう・・・それでもかまわないか?」「あぁ十分だ、かなり危険だから軍の人間に防御を担当するように伝えておいてくれ、それまでに俺は資料を見てるよ、他にできることもなさそうだしな」目標物が静希の手元にある場合は恐らくテオドールの部下も手を出しては来ないだろう動くとしたら静希の手を離れた後、誰かの手に渡り保管するべく移動中、その時に静希が行動を起こせば護衛は手薄になるそうなるとギリギリまで静希が資料を持っているのが好ましい、可能なら実行に移す直前までとは言え、今この場でテオドールの部下が監視しているとも限らない、なにせ話をしたのは昨日の話なのだ、そんな次の日にすぐ部下を差し向けられるとも思えないただ今のテオドールの背後にはイギリスの政府がいる、非公式ではあるものの協力関係にある両組織が全力で情報を求めた時、恐らくは多少なりとも偶然を装って協力体制を敷くことになるだろう準備などの通告が今日の昼までかかるというのはむしろ静希にとっては好都合だ、情報の整理という意味でも、こちらの準備が整うまでの時間稼ぎという意味でも準備が整えばあとは行動に移すだけ、可能ならテオドールに一報していきたいところであるこれで静希が勝手に動いただけではあまりにも無駄だ、せっかくメフィの力をお披露目してまでも隙を作ってやろうとしているというのに独り相撲では意味がない十一時までに連絡がなかった場合、静希から自主的に連絡をかけることもやむを得ないだろう「まさか本当に全力で悪魔の力を使うのかい?」「昨日も使ってもらいましたけどね、今回はプレッシャーをかける意味も込めて派手なのを使ってもらおうかと」先日のメフィの攻撃はあくまで対人レベルの攻撃だった、普通の能力者が使っていると言われても特に違和感のないレベルの攻撃だだが今日は対人レベルなどではない、それこそ対軍や対城レベルの攻撃を行ってもらうつもりだった他国へのアピールというのもそうだが、自分の方向に目を向けてもらうためには当然の行動と言えるだろうメフィの力をあまり大仰に見せるのは静希としても迷うところではあるが、今回は事情が事情だ、情報を早く共有するために必要な手段、そしてばれるのはあくまで能力のうちの一つだけ、それならば問題はないと静希は判断したのだカールから資料を受け取り近くの仮設テントの中で読み進めていると静希に連絡が入る、相手はテオドールからだった待っていたと言わんばかりに通話をスタートさせると、向こう側から何度も耳にしたいけ好かない声が聞こえてくる『やぁジョーカー、これだけのことが起こっているのに読書とはずいぶん優雅なものだな』「いったい何のことだ?俺はちょっとした資料に目を通しているだけだぞ、優雅とは程遠い・・・それにお前が遠視できるとは知らなかった」恐らくは部下から現在の静希の状況を報告され、それを踏まえたうえで電話をかけてきたのだろうこれは一種の確認のようなものだ、静希が持っているのが目標のデータなのか、そしてどのように部下を動かせばいいのか、テオドールはそれを確認しようとしているのである『資料?歴史的文化財でも見ているのか?だとしたら随分と勉強家だな』「歴史的に価値があるかは微妙だがな・・・これは結構重要な資料でね、悪いがお前にも内容は教えられない、そんなことをしたら俺が犯罪者になりかねないんでな」『おっとそいつは怖いな、お前がそんな重要な情報を握っているのは珍しい、せいぜい大事に抱えていることだな』相変わらずわざとらしい言い回しだなと自分でも苦笑しながら静希は周囲の人間をさりげなく確認する現在近くには軍の人間と研究者が何人か、他の人間はどうやらまだ他の場所で調査を続けているらしい、人が少ないというのはありがたいことだ「まぁそうなんだけどな、生憎昼頃にちょっと派手な仕事をしなきゃいけなくてな、もともと俺の持ち物じゃないからその後は持ち主に管理してもらうさ」『あぁそうだな、そんな重要なものをお前みたいなやつに預ける奴の気がしれない、とっとと持ち主に渡した方が『安心』ってなもんだ』本当にわざとらしい言い回しをするなと静希もテオドールも互いに苦笑してしまうこの笑いが互いに楽しいからではなく、互いに皮肉に思っているからだというのもまた妙な話である静希がきちんと持ち主であるカールに資料を返したなら、静希に監督責任は無くなる、つまりその先に盗まれても静希の責任は無くなる同時に、テオドールには昼に静希が派手な何かをするという事を伝えた、つまりは周囲の目が静希に向く可能性が高いという事であるそうなればテオドールとしては仕事がさせやすくなるだろう、なにせ一瞬でも周囲の目が静希に集中するのだからすでに静希はテオドールの部下に見られている、となれば後は資料の方に注視してくれれば、今後の展開としてはやりやすいだろう「まったく、さっさと一安心したいよ、こんなもの持ってても冷や汗しか出てこない」『そうだろうな、まぁ昼に仕事があるならその少し前に返せばいいだけのことだ、それまではせいぜい冷や汗をかいていろ』やはりこの男は危険だ、自分に似ているからこそそれがわかる静希もテオドールも、互いにそう思っていた、敵視しても、敵対関係になっても、そしてその関係が続いても、今こうして形だけでも協力しても、その考えは覆らない可能であるなら早めに始末しておきたい、だが互いの立場とその力関係がそれを許さない悪い意味で静希とテオドールの力関係は拮抗している陽太や石動が前衛としての力を競い合うのと似ているかもしれない、あの二人は純粋に自らの力だけで競い合うからこそ、その拮抗は時に美しく見える、傍から見ていて清々しく見えるだが静希とテオドールのそれは美しさや清々しさとは程遠いどちらも浅黒く、薄汚い、それを互いに自覚しているからこそなお性質が悪い二人が今こうして互いに手を出せないのは、それぞれの後ろにいる存在が厄介なものであるからに他ならない静希には人外、そしてその周りにいる人間達、しかも静希を支持する人間は増え続けているテオドールには犯罪組織、そして非公式ながらイギリス政府両者ともに手を出せば面倒になるのは間違いないのだ、どちらかが犠牲を厭わずに殲滅しようと思えば可能だろう、だが自分が負う傷も生半可なものではなくなることが予想できてしまうだからこそ、互いに手が出せないならば互いに利用しよう、そう言う流れになっているのだこの二人の利害は今のところは一致している、互いに排除したい存在でありながら互いに排除できずにいるもどかしくもあるが、これがこの二人の関係性なのだ仲間ではない、同僚でもない、先輩後輩でも師弟でもないれっきとした敵、明確な敵対関係他の人間がどのように認識しているかは定かではないが、静希とテオドールは互いに互いの存在を敵として認識しているその関係が互いにありがたく感じることもまた確かだ、罪悪感などもなく、敵として利用できるというありがたさそして互いが互いに敵として信用している、この二人の間にあるのがこの奇妙な敵対関係であるのを知っているのは本当にごくわずかな人間だけだろう悪党同士といえば、少しはその関係性が明確になるかもしれない静希が自らを小悪党と表現するように、テオドールも同じように自らを悪党と称した育ちも人種も経歴もまるで違う二人がここまで似ているのは、偏にその本質が似ているからに他ならないのかもしれない

テオドールとの通話を終えると、静希もようやく自分のことを誰かが見ているという事を自覚できるようになった以前にも似たようなことがあった、敵意を向けられているわけではないが、どこかで誰かが見ているという、そう言う感覚だまだ城島のようにその方角までは感知できないが、今も誰かが自分のことを観察している、そのことは静希にも十分理解できた「今の電話、また奇妙な内容だったね」「そうですか?ただの世間話のつもりでしたけど」自分が話した相手は単なる知り合い、そして話した内容もただの世間話、静希はそう言う風にするつもりなのだそして大野と小岩も同じようにそれを黙認している、静希がどんな手を使うにしろ、その内容を二人とも理解しているのだこの国の人間が情報を出したがらないという理屈も理解している、だがその理屈を理解してなお、静希がやろうとしていることのメリットの方が優先されるように思えるのだ大局的な見方などは静希はまだできない、大野と小岩もそう言う考えは不向きだ、だがこの情報によって得られるアドバンテージは大きい他国の人間がそれを知れば、事前に今回のような状況を防ぐことができる今回は八千人近い、もしかしたらそれ以上の犠牲者がいても不思議はないだが次はもっと多くの犠牲者が出ることになるかもしれないのだ次があるかも定かではないが、その可能性があるのなら一つの情報くらいは流出させるべきである「大野さんと小岩さんは、昼頃に力を使う時はどこかに避難していてください、巻き込まれると危ないので」「それほど強い力を使うの?なんだか危なそうね」「えぇ、なので防御はこの辺りの軍の人間に任せます、防ぎきれるかどうかはわかりませんが」恐らく、軍の人間の中で防御を得意とする人間がいたとしても完全に防ぎきることはできないだろう、メフィの力はそれだけ強いのだだがそれでいい、事前に通告をしたのだ『危険である』と、めったに見ることのできない危険な力、それは今後の参考でもあり、静希が有している力の片鱗を確認することになるどんなに集中している人間でも、必ず目を向けてしまうほどの力、メフィはそう言う力がある好奇心、人はその『見てみたい』という欲求に勝てない事前に通達させることで、その欲求はさらに強いものになる、なにせ悪魔の能力を実際に見ることができるのだから周囲に存在している人間すべての視線を静希に集めるのだ、そうすることで一種の目くらましにはなるここまでお膳立てをしたのだ、これで失敗しようものならテオドールを思い切り小ばかにしてやろうと静希は企んでいたその企みが上手くいくかどうかは静希自身も確証がない「ちなみにその攻撃はどこから撃つつもりなんだい?まさか真上?」「それも考えたんですけどね・・・もし攻撃が逸れた時地面に被害が行くのはまずいかなと・・・なのでこの付近から『あれ』めがけて使うつもりです」メフィの姿を見られないように真上から撃つことも考えたのだが、今メフィは静希の体の中にいる、この状態で彼女が能力を使うわけにはいかないが静希のトランプで目隠しをすれば十分にその姿を隠せるだろう攻撃が通用しないのはすでに確認済みだ、今回の攻撃は派手な花火のように人の視線を引くことが目的である「これだけの人に見られるっていうのは、君としても本意じゃないんじゃ」「そりゃ手の内を明かすことになりますからね・・・でもいいんですよ、俺がそう言う悪魔を連れてるって相手が知れば、それを逆手にとれますから」静希の連れる悪魔、メフィストフェレスの能力は『再現』だ再現できる能力は発現系統に限られ、面倒な手順をいくつも踏まなくてはならないがその手順さえ踏んでしまえばあとはその能力を自由に再現できる操作性と制御性を犠牲にしてはいるがその威力は絶大だ、さらに言えば彼女がもつ能力の数は静希も把握しきれない今のところ把握できているのは光弾を打ち出す能力、そして消滅の能力、念動力の能力、以前ダムを破壊した広範囲への攻撃ができる能力、東雲風香が使っていた圧縮した空気を発現する能力の五つ本来能力は一つの存在に一つだけ、その認識が誤認を呼ぶ静希の場合で言うなら、外国であるにもかかわらず、言語の違いを全く意に介せず会話が可能になっている点から、静希が同調系統の能力者であると誤認している人間がほとんどだろう実際は静希の所有する霊装オルビアのおかげであるのだが、その誤認もまた静希にとってはありがたい何もわからない状態から、実際にその能力であるとわかった状態ではその対処がまるっきり異なる、特にそれが能力であるならなおさらだメフィの能力も同じで、一つの能力を所謂ブラフとして見せつけることで、周りの目をくらませるのだそう言う意味では静希とメフィは性格的に、そして能力的に非常に相性がいいと言えるだろう、いや正確に言うなら、相性が良くなったというべきか隠そうとするだけではなく引っ掻き回すという事柄においてメフィの能力は最適と言えるだろう、そう言う意味ではこの二人はなるべくしてなったという関係に他ならない正午、静希は軍の用意した携帯食料を腹に入れた後、ゆっくり準備運動を始めていたやるべき仕事の時間が近づいてきているのがわかったからでもある、なにせこの周囲に研究者と軍人が集まりつつあるのだそして自然とその視線が静希に集まっているのが感じられる、これから見ることのできる悪魔の力、そしてその悪魔を飼いならしている人物実際には飼いならしているとはかけ離れた契約状況ではあるが、他人から見れば静希は悪魔を適度に飼いならしているように見えるのだなにせ自分の決めた時に能力を使わせているのだから、実際に操れていると言っても問題はないだろう『さてメフィ、準備はいいか?』『えぇいつでも、派手に一発当てればいいのね』『あぁ、威力よりも派手さを要求したいな、どでかい花火を頼むぞ』今求められるのはその威力よりもその強大さだ、はっきり言ってしまえばその威力は悪魔である以上人間の使う能力の何百倍もあるのだ、中身だけではなく、外見上も強力であるように見せかければなおよい、今回の目的からすれば派手であればあるほどありがたいのだ「ミスターイガラシ、そろそろ準備が終わる、君の方も準備を」「えぇわかってます・・・少尉、資料を返しておく、この辺りも巻き込まれるかもしれないからどこかに保管させておいてくれ」そう言って先程まで持っていた資料をカールに渡すと、先程までずっと静希にへばりついていた視線が急になくなる恐らく目標が静希からカールの手に渡ったという事を認識したのだろう、テオドールの部下はしっかりと目標を認識している、ここまでは問題ない「了解した、おい、これを保管庫に」「了解です!」カールは近くの部下に資料を運ばせるようだった、これは好都合だ、カール自身が持っているよりもその部下がもっていた方が仕事は運びやすいだろうカールの立場が現場の指揮である以上この辺りにいなければいけないのはわかっていたが、部下に運ばせてくれるのはありがたかった資料がどこかに運ばれたのであれば静希としてはもう何時動いても問題ない、できる限り大きく、派手に周囲の人間の視線を自分に集める普段なら視線を自分から逸らせるのが定石なのだが、今の立場からすると注目を浴びないというのは無理があるだろう、ならばいっそ大仰に視線を集めて派手に意識をこちらに集中させた方がいい自分が派手に動けば、その分周りの人間は動きやすくなるテオドールに手を貸すというのは少々癪だが、これも仕方のないことだ、あの情報はそれだけの価値がある、周辺諸国に解析させてしっかりと対策を練るべきだ「よし、少尉、こっちの準備はオーケーだ、研究者たちの避難はどれくらい終わってる?」「八割といったところだ、まだ場所をはなれたがらないバカがいて・・・済まないがもう少し待ってくれると助かる」研究者というのはこういう時に厄介だ、自分の考えが立証されるまで妙に頑固になることがある本来であるなら命の危険があるとわかるような場面で、それを理解する頭をすべて別のことに回してしまえるのだ頭の使い方を間違っていると言いたいが、それもそれで有用な使い方だ一点突破と言えば聞こえはいい、少なくとも他のことに目もくれない集中力と言えばそれもまたいい表現の仕方だろうだが実際は盲目的になっているだけで周りに迷惑をかけることもしばしばだ、現在進行形で迷惑をかけている人間もいる、軍の人間が急いで避難させようとしているようだが、なかなかどうして研究者も護衛対象なのだ、むやみに傷つけるわけにもいかないのだろう「少尉、こちらとしてもさっさと終わらせたい、強引な手を使ってでも研究者をさがらせてくれ、でなければ命の保証はできない」「わかっている、おい、近くの研究者を今すぐさがらせろ、防御担当のチームは何時でも能力を使えるように待機しておけ!」こういう時に悪魔の契約者という立場はありがたい、多少無茶なことでも指示できるのだから悪魔の契約者が危険という事をわからせるいい機会かもしれない、思えば悪魔の力を大々的に使うのは実に久しぶりかもしれない巨大な能力を使っての攻撃は、過去ダムを破壊したとき以来だろうか『今日は久しぶりにでかい能力を使えるな、お前としてもいいストレス発散になるんじゃないか?』『そうね・・・あれが壊れないのはわかってることだし、思い切りやってあげましょうか』幸いにして周囲は高い魔素濃度を保っている、この状況であればメフィは最高に近いコンディションで能力を使えるだろう普段は能力を使わせないようにしているのだ、たまにはガス抜きという意味でもこういうことがあってもいいかもしれない『邪薙、万が一俺に余波が来たらその時は防御頼むぞ』『了解した、任せておけ』軍の防御だけでは心もとない、余波程度であれば邪薙が全力で障壁を張れば防ぐことはできるだろう「ミスターイガラシ、準備ができた、全員避難完了、いつでもいいぞ」「了解した少尉・・・それじゃいっちょやりますか」悪魔の契約者としての仕事、こういう仕事をするのは初めてだがどれだけ注目を集められるか、せいぜい大仰に周囲の視線を集めることにしようと静希は意気込んでいた

周囲の人間の視線を集めるのに必要なのは一種の演出だ手品師などはあえて大げさな動きをすることで人の視線を誘導し手品の仕掛けがわからないようにしているその動きには緩急があり、唐突に動くものもあればゆっくりと動くものもある、そう言った動きの変化が人の視線を惹きつけるのだ現在静希には周囲にいる全員の視線が集まっている、幸か不幸か静希が悪魔の契約者であるという事はこの近くにいる人間にはすでに周知の事実なのだならばそれを利用して、できる限り荘厳な演出をするまでメフィを出して能力を使わせるだけなら数秒で済んでしまうが、そこまでのプロセスに時間をかけることで周りの視線を自分に釘付けにする静希はまずメフィに指示してほんのわずかに体を浮かせた、周りには風が起こり、周囲の人間は騒めき始めているこれから悪魔が現れるという事を信じて疑わない様子だ実際は彼女の能力を微弱に発動させてそれっぽい演出をしているに過ぎないそして静希は周囲の視線が集中しているのを確認すると懐からトランプを取り出す風に乗せるようにトランプをばら撒き、操りまるで魔法陣のように形成していくそんなことをする意味などない、またこれも誘導の一種だ、唐突にトランプを使ったことでこれもまた必要なことであるかのように錯覚させる実際に静希の能力はトランプを媒介にしている、これを見せるのは多少悩んだが、メフィの姿を露見させるよりはずっといい思えば以前邪薙を大人しくさせる演技をした時も似たようなことをした、トランプにそんな効果は一切ないのだが、こんな状況だ、少しでも視覚的に意味が込められていると思い込ませればいいのだ『じゃあメフィ、タイミングは任せるぞ』『了解よ、あくまでそれっぽく演出すればいいのね?ふふ、腕がなるわ』メフィもテレビなどで無駄に知識を取り込んでいるために『それっぽい』演出などは見慣れているだろう長い時を生きている悪魔としてそれはどうなのだろうかと言いたくなるが、今はそれはよしとしよう周囲のトランプを徐々に回転させ何かが起こる前兆であることを演出し、徐々にその速度を高めていく広くあたりに展開していたトランプを自らの周囲に収束させ、周りから見えにくいようにしていく「さぁ、行きましょうか」いつの間に自分から出たのか、ゆっくりと体を宙に浮かせているメフィはやる気に満ち溢れているように見えたゆっくりと宙に浮くメフィの体を覆うようにトランプを展開させ続けそこに何かがいるかのように見せつけるそのトランプの中にはメフィがいる、いつでも能力を発動できるように集中を高めているのが下にいる静希から見ても分かるほどだ仮に外から何かしらの細工をされたとしても、すぐにトランプの中に避難させることでメフィは守れる、周囲から静希めがけて攻撃が来ても邪薙が守ってくれる後はメフィの演出とやらに任せるだけである正直に言えばメフィがやる気を出して『それっぽい』演出をしようとしているのが一番不安なのだ彼女は良くも悪くも気まぐれだ、その時の気分次第で何をするかわかったものではない極力派手にとはいったが、一体どれくらいの規模の攻撃をするかわかったものではないメフィを覆うトランプの周囲に徐々に光弾が発生しつつある、だがその大きさは今までのそれと比較にならないほどだ十や二十ではない、もっと多く、大きいそれが徐々に集まっていく円を描くようにゆっくりと一つの塊へと確かにそれっぽい、能力を使うだけならただ目標に撃てばそれで済むだろうにこういった演出をするあたり確かにそれっぽい事実周囲の人間の視線はトランプと、その周囲にできている光弾に集まっている、彼女の演出が功を奏しているという事でもあるのだそして光弾がまるで輪のように形を変えるとその中心に黒い塊のようなものができ始めるあれはたしかダムを破壊したときに使った能力だ、一体どういう能力なのかは知らないがかなり広範囲に破壊をまき散らすという事はわかっているもしかしたらここにいたら巻き添えを喰らうかもしれないなそんなことを考えながらも静希はその場から動かなかった、というか動いたらせっかくメフィがそれっぽい演出をしてくれているのに台無しだと思ったのだ光の輪がまるで黒い球体を誘導する滑走路のようになると周囲の大気が震え始めるそれが能力のせいなのか、それともメフィが何かしらの演出をしているのかは不明だ嫌な予感がする静希がその嫌な予感を感じ取った瞬間、それは起こったメフィが作り出していた黒い球体が高速で歪みの方へと直進したのだ音はなかった、ただ周囲には衝撃波がまき散らされる結果となった恐らくはメフィの操作で能力がはじける方向をある程度限定したのだろう、静希達のいる方向に被害はなかったが、その分他の場所への衝撃はすさまじいもののようだった静希の目の前には一応邪薙の障壁が展開されその身を守ったが、周囲に展開していた軍人が作り出した防御壁などはほとんど役になっていないようだった強すぎる衝撃のせいでテントが破壊されたり吹き飛ばされたりと、木々さえもなぎ倒される中で徐々にそれは収まりつつあったメフィの能力の余波が収まると、静希はゆっくりとトランプを自らの近くへと移動させていくメフィもその動きに同調し、ゆっくりと静希の下へと戻ってきた「どう?それっぽかったでしょ?」「あぁ、満点に近いな、ありがとうメフィ」静希は礼を述べ軽くメフィの頬を撫でながら再び自分の体の中へと宿らせる戻ってきた違和感と同時に、静希はトランプをその手に集め懐にしまい込んだそして残ったのは悪魔の能力を使った余波と、眼前にそびえる黒い歪みだったわかってはいたが、メフィの全力を打ち付けても何も効果がない、そもそも物質的な概念とは程遠いものなのだろう、そんなものを『傷つける』という考え方をする時点で間違っているのかもしれない攻撃による余波が完全になくなった今も、周囲にいる人間は唖然として静希と、そしてその攻撃を受け切った歪みの方を眺めていた開いた口が塞がらないという表現が正しいだろうか、軍の防御を担当していたチームが単なる余波も防ぐことができなかったという事実もそうだが、それだけの攻撃を受けてもびくともしない黒い歪みに対して俄然興味がわいたようだった「少尉、こいつでだめとなると俺にできることは多分もうない、後は周囲の警戒に勤しむことにする、何か注文はあるか?」すでに静希はやるべきことを終えた、後は静希の知った事実を上の人間に正しく伝えることくらいだが、それは今やるべきことではない今できることと言えば最低限の見回り位のものだ、先程の能力の使用でどこかしらに影響を与えなかったとも限らない「あ・・・あぁ、それなら・・・そうだな・・・疲れなどがないのであれば外周部にいる軍と連携して警戒に当たってくれ・・・『これ』の周囲は私の部隊で警戒する」「了解、んじゃ後は任せる、道案内くらいは用意してくれよ?」先程の攻撃を見て、静希に研究者たちの護衛をさせるのは不向きだと判断したのだろう、その考えは正しい、元よりメフィの能力は護衛などには不向きなのだ守る者の近くであれほどの大能力を使おうものなら完全に巻き添えになる、護衛が護衛対象を傷つけたのでは意味がない静希のような悪魔の契約者は、護衛対象から離れた場所での防衛ラインの形成などに役立てるべきなのだ、そしてあの一撃でカールはそれを理解した優秀な指揮官だ、そしてそれ故に扱いやすいこれで静希が外周部の警戒に当たれば、仮にこのあと資料が盗まれたとしても静希のアリバイは確実なものになる隊員の一人がカールに指示されて防衛ラインとなっている場所へと移動するべく、車を一つ借りてやってきてくれたこの黒い歪みのある場所から少し離れた場所が所謂防衛ラインになっているらしい索敵系の能力者を円状に張り巡らせ、唯一ともいえる車の通れる道に部隊の一部が駐留しているようだった静希と大野、そして小岩の三人がその駐留地域にたどり着くとそこにはすでに情報が伝わっていたらしく隊員の中の一人が駆け足でこちらにやってくるのが見つけられた「ミスターイガラシですね、これより同行させていただきますハボック上等兵です、どうぞよろしくお願いします」敬礼して自分の階級を述べる軍人に静希は目を細めたハボックと名乗った軍人の特徴をあげるなら、少し若く見えるくらいだ、恐らくは大野たちと同じか、それより少し年上くらいだろうか彼がなぜ静希達に同行するか、言ってみれば監視役のようなものだろう道案内と言っては見たが、こうも露骨に人員を宛がわれるとは思っていなかったとはいえこの展開は好都合だ「五十嵐静希です、こっちは護衛の大野と小岩です、これより外周部の警戒に当たります、簡単な説明と道案内の方をよろしくお願いします」「お任せください、ではまず軽く地図で説明しますのでこちらへどうぞ」駐留地域にも仮設テントが張られており、まずハボックはそこで説明をするようだった「いいのかい?言われるがままに行動して」「えぇ、今この場ではこの扱いの方が楽です・・・後々の行動は自分で決めますよ」今はアリバイをしっかり固めておいた方がいい時間だ、まだテオドールの部下が仕事を成功させたともわかっていない、今ここで妙な行動をするとかえって怪しまれかねないのだならば少し大人しくしておいた方がいい、その為にこの上等兵にはこのまま一緒にいてもらったほうがいいだろう「この円が今回の黒い何かで覆われている地域を表しています、そしてこの円が防衛ラインを示しています、ミスターイガラシにはこの円の地域の警戒をお願いします」「了解・・・ちなみに索敵に穴はあるのか?」「今のところ報告されていませんが・・・これだけの範囲なのでどこかしらに穴はできてしまっていると思います」いくら人員を導入したところで広すぎる範囲を索敵で埋めるのにも限界があるだからこそテオドールの部下が悠々と侵入してこれたのだ、はっきり言って軍の索敵網はあまり当てにしない方がいいだろう明利が一緒にいればこの周辺にある木々を利用して索敵網を敷けるのだが、今回ばかりは仕方がないというほかない「索敵手とチームが配置されてる場所を教えてくれ、それぞれ配置が甘いところを重点的に警戒する」地図の説明だけで現場の判断はできないが、今できることはする、その時間をかければかける程自分のアリバイが確かなものになる静希は小さく息をつきながら集中を高めていった

「以上がこの近辺に配置されてる部隊の現在位置です、もっともこれは予定配置図であって実際は常に動いているため正確ではないかと思いますが」ハボック上等兵の説明を聞きながら静希は地形図を見てその索敵範囲を大まかながら割り出そうとしていた能力にもよるが、索敵手の索敵範囲は大体数百メートル前後、索敵に特化した能力であるなら数キロまでは問題ないはず周囲に配置されている索敵手の場所と部隊の場所を見比べながら静希は思考を加速させていく近くの地形からして防衛線を張りにくくなっている個所がいくつかあるのがわかる、湖の上だったり、山の境目だったりと侵入経路は探せばいくらでもありそうだった「とりあえず移動するか、地図のここに行きたい、案内頼める?」「了解しました、移動します、ついてきてください」道から外れて移動するという事もあって基本は徒歩だ、と言っても軍の移動は歩きなどという生易しいものではない山道にもかかわらず通常の全速力と同じくらいの速度で移動し続ける、以前樹海で行動した時もあの走法は見たことがある、日本のそれとは少し違うが悪路での移動速度を追求した動き方だ森林地帯での行動はなれている静希に、軍での訓練をひとしきりこなしている大野と小岩はそれに難なくついて行っていた『シズキ、気づいてる?』『あぁ・・・見られてるな・・・大方後ろの方からもう二、三人くらい監視役が来てるんだろ?』悪魔の契約者相手にたった一人の案内役兼監視役を付ける程カールはバカではなかったという事だろう保険を兼ねて静希にはさらに監視がつけられているようだったさすがに人数までは不明だが、見られているという感覚がする、こんな周囲に誰もいないはずの森林地帯にもかかわらず「大野さん、小岩さん、後ろから誰かついてきてますか?」一旦オルビアの簡易翻訳を切ってから二人に話しかけると、二人はすでに背後の気配を感じ取っているようだった移動し続けていることもあって詳細な気配の察知には難色を示しているようだったが、どうやら二人にも感じ取ることができているようだった「あぁ、二人追ってきてる、たぶん軍の人間じゃないかな」「監視役ってところかしら、わざわざご苦労な事ね」「こっちとしてはありがたいです、大勢で確認してくれた方が楽ですから」アリバイが欲しい静希からすれば大勢で確認してくれている方が助かるというのが本音だ、なにせ今これから静希はもう自主的な行動をするつもりはないのだからすでに静希がとるべき行動はとった、できることやるべきこともした、後は流れに身を任せて様子をうかがうだけである場合によってはイギリスを経由してでも上層部に話し合いをするべきかもわからない「それにしても、妙なもんだね、これだけ移動してるのに生き物にまったく遭遇しない」「あぁ・・・そう言えばお二人は知りませんでしたね、悪魔が出る地域っていうのはだいたいこういう風になるんです、生き物がいなくなって・・・」そこまで言って静希はあることに気付く確かに今静希の体の中にはメフィがいる、人外独特の気配を放つことで動物たちに威圧感を与えていることだろうだがメフィを出す前はどうだったのだろうか静希の感覚を阻害しているあの歪み、あれがあった時から動物たちはいなかったのだろうか『ウンディーネ、ここ最近の動物たちの動きってわかるか?』『動物達・・・ですか?えっと・・・あれが起きる十日ほど前に何やら騒がしくしていたようでしたが』歪みができる十日ほど前、そのころに騒がしくしていたとなると歪み以外の原因がある恐らくは静希と同じ、契約者がここにいたのだ、魔素の変化が歪み発生の一週間前、動物たちの変調が十日前、これは恐らく偶然ではない十日前にここを訪れた、それだけでは情報が少なすぎる、特定までは至らないだろうだがもし、この付近にもまだいるのであれば歪みが放つ独特の気配のせいで人外の察知はできない、だが幸か不幸かこちら側には索敵手が何人もいる、人海戦術で探すことも不可能ではない歪みに巻き込まれて消滅した可能性も否定しきれないが、この辺りに潜伏している可能性もまだ残っている防衛ラインを縮小して内側の安全だけを確認することもできるだろうが、今それをするとテオドールの部下まで発見させかねない今は大人しくしているしかできない、少なくとも成功の報告を聞き終えるまでは『メフィ、もし契約者がいた場合、頼むぞ』『えぇ、任せておきなさい・・・今すごく調子がいいの』調子がいい、それは魔素の濃度が高いからだろうか以前石動の家に行ったとき、魔素濃度が高いと精霊が喜ぶというのを聞いたことがあるが、悪魔にも同じようなことがあるのだろうか樹海のような魔素過密地域とまではいかないが、この周辺の魔素濃度は比較的高い能力を使う分には全く支障が出ないレベルだ、それが悪魔が使うような大能力であろうと容易に使える程にこの魔素濃度が吉と出るか凶と出るか、未だ判別はできない考えることが増えてしまったなと静希は小さくため息をついていた静希が指定したポイントは丁度部隊の編成が甘い場所だった、もし静希が侵入するとしたらここを選ぶという、人員配置を理解したうえでのポイント、索敵手の間が若干空いており、なおかつ起伏が多く隠れやすいポイントである契約者がいる可能性がある、そうなると静希が警戒するだけの理由にはなるもしこの惨状をどこかで監視しているのであれば、危険地帯は避けるはず、すでにこの場を離れている可能性が高い、だが探す価値はある「ハボック上等兵、この辺りにいる部隊と連絡は取れるか?」「はい、無線連絡ですが可能です、何か確認しますか?」彼がもっている無線で連絡は可能らしい、オルビアの翻訳はその場にいなければ効果を発揮しないから彼に口頭で伝えてもらうことになるだろう「今から各員点呼を一定時間以内に行うようにしてくれ、もし少しでも異常があるようなら報告、及び適宜対応・・・今のところそれでいい」「了解、各員に伝達しておきます」今のところ索敵の強化までは必要ない、というか強化してはいけない、強化させてこの辺りの安全を確保するのは確認が取れた後だ「この後はどうするんだい?このまま警護?」「・・・それもいいんですけどね・・・どうしましょうか・・・」できることが限られていると考えるだけの余裕が生まれる、静希は今この事件のことを一から考え直していた時系列的にまとめれば一番手っ取り早いだろう、ウンディーネの話をまとめたうえで静希は思考を始めていた歪みが発生する十日前、この近辺に悪魔の契約者が現れたと思われる、これは周囲の動物たちの動きから判断したものだ、もしかしたら悪魔ではなく、他の強い圧力を放つ存在の類かもわからない魔素の変調が起きてから一週間後事件が起き、歪みが発生する少し前には仮面をつけたエルフのような人間が確認されている歪みが発生した後に何かしらの発見があったことは確認されていない、この歪みの発生源は古い教会で、現在そのあたりのことは調査中近辺のエルフのことも同じく調査中、そして歪み発生前にいたと思われる契約者は依然として何処にいるかわかっていない歪みが発生する前に特徴的な魔素濃度の波形を作り出すという事が判明し、現状をオーストリアの上層部に伝えるも情報の提供を渋っているらしいその為情報を拝借するためテオドールの部下が行動中、現在の状況は不明イギリスの政治に絡んでいる王室の人間に掛け合ってそのあたりの連携を密にし、さらにその情報をマスコミなどに流さないように徹底して情報規制を行うように伝えてある後はこの歪みが、あの黒い何かが一体何なのかを上の人間にわからせる必要がある一度説明会でも開いた方がいいかもしれないなと静希はため息をつくそんなことを考えていると静希の携帯が震え始める、どうやら着信が来ているようだった相手はテオドール、恐らくは今回の進捗状況の報告のようなものだろう「もしもし、そう何度もお前の声とか聞きたくないんだけど」『あー・・・イガラシ、少々面倒なことになった』テオドールの声は良いものとは言えない、どうやら状況は芳しくない方向に動いているようだったこれはまずいかもしれないなと静希は内心舌打ちする「どうした?お前の部下がまた何か面倒でも起こしたのか?」『いいや、俺の部下は非常によくやってくれた、すでに帰路についてる・・・そうじゃない、問題はそっちじゃないんだ・・・あいつにお前と最近連絡を取り合っているという事がばれた』どうやら情報の方はすでに持ち出しは終えたようだが問題が残っているというか問題が起きてしまったという事に静希は首を傾げたあいつそう言われても何も思い当たる節がないのだが、受話器の向こうで甲高い女の子の声がしているのに気付き静希は思い当たるついこの間連絡した王室の人間であるアラン、彼の娘のセラだ何故かは不明だが彼女は静希に懐いている節があった、父親とテオドールに最近しきりに連絡しているという事でまたイギリスに来るのではないかと勘違いしたのかもしれない「ひょっとして・・・セラか?」『あぁそうだ、うちのお転婆姫がお前に会わせろとひっきりなしに騒いでいる・・・どうにかしてくれ、このままじゃ俺の安眠はないも同然だ』子供がわがままを言っているというだけならば特に問題などない、だが良くも悪くもセラはイギリス王室の人間だ、その我儘は大人も巻き込むようなものなのだテオドールはセラが苦手なようだが、セラはテオドールのことは嫌いではないのだろう、よく話し相手になっているという事を聞いたことがあるそれにしてもこのタイミングでまさか彼女が関わってくるとは思わなかった、いや正確に言えば関わっているわけではないのだがこんなタイミングで名前を聞くことになるとは思わなかったのである「彼女の父親は?なんて言ってるんだ?」『会いたいなら会わせてやればいいんじゃないかとか言ってる・・・イガラシ、その面倒事が片付いたらそのままイギリスに足を運んでくれると助かる』「あぁ?ふざけるなよ、そんなことできるわけ・・・」そこまで言いかけて静希は言葉を止めるこれは丁度いいかもしれない、そう思ったのだ、良くも悪くも王室の人間と会うのだ、多少面倒ではあるができることはするべきだろう、多少期間が延びるかもしれないがそれは仕方ないことだ「条件がある、俺を彼女とその父親の護衛役として引っ張って来い、ちょっと今回の事件の説明もしなきゃと思ってたところなんだ」『それは・・・構わないが・・・お姫様のお守りをすることになるぞ』セラの我儘に振り回される、その苦労をテオドールは身にしみてわかっているのだろう、声からその表情が目に浮かぶようだだが今はそんなことを言っているだけの余裕はない、取れる手は何でも取るべきなのだ「それは何とかする、あともう一つ、俺が護衛をやるときに今回の件の周辺諸国の会議を入れておいてくれ、ついでに俺の参加権限もな、それをクリアしてくれればお姫様のお守りくらいやってやるよ」『・・・確かに近日中に各国を集めた会議はあるが・・・それは・・・』「できないなら拒否だ、悪いが我儘お姫様のお守りはできないね」静希の言葉にテオドールは非常に悩んでいるようだった、こちらもまだまだやることがあるのだ、お姫様の我儘程度に付き合っている暇はないただそれを踏まえて面倒だった手順が一つ片付くなら悪い取引ではない、子供の買い物くらいで片付くのなら安いものだ『・・・少し確認する、少し待っていろ』テオドールは焦りながら通話を切った、子供が嫌いというのも難儀な話だ、それが災いしてセラに懐かれることになってしまっているのだろうが、そのことにテオドールは気づいているのだろうかそんな話をしていると近くにいたハボック上等兵が何やら無線連絡を受けながらこちらをちらちらとみている、無線の向こう側が何を言っているのかはわからないが、静希の姿を見ながらここにいます、ずっと監視していましたと報告していた「ハボック上等兵、何かあったのか?」「あ・・・いえ、問題ありません、異常なしです」どうやら軍の内部で問題があったようだ、恐らくはテオドールの部下が首尾よく情報を拝借できたのだろうそしてそれを静希に知らせるつもりはないようだった、身内の恥をわざわざ晒すようなことはしないという事だろう、ならば知らないふりをするまでであるなにせ静希はこの件に関しては『何も関わっていない』という立場なのだ、その姿勢を崩すわけにはいかない妙な疑いをかけられるよりは何も知らされず、何も知らないという状態を貫いた方がましである情報の奪取が成功したのであれば、これからはいるかどうかも分からない契約者の捜索に当たったほうがいいだろう、テオドールが動くのを渋っているのであればそれまでは自由に行動させてもらうことにしよう「ハボック上等兵、周辺に散開しているチームに連絡してくれ、一時的に索敵網を縮めたい、防衛ラインの内側を徹底的に調査する」「え?な、何故ですか?そのようなことは・・・」「ちょっと面倒なことがあってな、俺の杞憂であればいいんだが・・・承認が下りないのなら少尉に直接掛け合う、繋いで伝達してくれ」ハボックは一旦無線を別の周波数に切り替えたのか、カールと連絡してくれているようだった「ミスターイガラシ、やはり理由もなく防衛ラインを下げるのは承認できないと・・・」「そうか、ならこう伝えてくれ、すでに防衛ラインの内側に契約者がいる可能性が高い、一度誰もいないという事を確認しておきたいと」ハボックがその言葉をそのまま伝えると、恐らく無線の向こう側のカールは現在起きていることと比べてこちらの動きに若干ではあるものの不信感を抱いたはずだタイミングが良すぎるというのも考え物ではあるだろう、なにせ情報が奪われたという事実が発覚した途端に静希が内側の安全性の確認をしようとしているのだから「それでも渋るならこう伝えてくれ、何があったのかは知らないがこれは最優先事項だ、危険因子をすでに内包している防衛ラインに意味はないと」静希はあくまで何も知らない、静希は契約者の危険性を説いているだけだ先程の一撃を見て悪魔の力が絶大であることは周知の事実、その契約者がこの近辺にいるとなるとその危険性はかなり上昇することになる「・・・ミスター、一度戻って報告をするようにとのことです」「・・・了解した、んじゃ急いで戻るか、走って戻るのか?」「いえ、その必要はありません」ハボックが合図をすると静希達の背後からずっと追っていた二名の隊員が姿を現した追跡するという事の意味がなくなったからだろうか、それとも別の役割を与えられたという事だろうか「なんだ、もう追いかけっこはいいのか?」「・・・今から少尉の下へお連れします、どうか動かないでください」軍人の一人が静希と大野、そして小岩の体に触れると短く集中するそして気が付くと静希達は歪みのすぐ近くの仮設テントにやってきていた転移能力者、こんな能力者がいるならさっさと使わせてくれればいいものをと静希は内心悪態をつくが、今はそんなことはどうでもいい「ミスターイガラシ、報告してくれるか、何故防衛ラインの中を調べようなどと」仮設テントの中にはカールが待っていた、その表情は浮かない、先程あった軍内部でのごたごたもそうだが、静希の言っていることに強い不安を覚えているのがわかるここで焚き付ければ多少動かしやすくなるだろうが、変に不審がられても面倒だ、ここは事実だけを話すことにしようと静希は口を開く「俺が契約者であることはすでに周知の事実だと思うが、もう一つちょっとした力があってな、さっき森を移動している時に精霊の一種と話ができた」「・・・精霊・・・?」嘘は言っていない、静希は確かに精霊であるウンディーネと話をして情報を得た悪魔の契約者であるために人外の存在には慣れている、そのくらいのことはしても不思議はないと認識されたのだろう、その点に関しては特に気にされることはなかった「これが出てくる十日ほど前、この近辺の動物たちが急に移動を始めたそうだ・・・これは悪魔がいる時などの現象でな、生き物たちは圧倒的な存在感を感じ取って逃げ出したと考えられる」静希が今まで関わってきた人外の事件や、メフィ自身がもつ気配、これによって動物たちが逃げ出すというのはすでに分かっていることだ、それに逆らう個体もいるが、ただの動物であるなら普通は逃げ出すのであるそれを利用したこともあったが、今回は少々事情が違う「・・・ふむ・・・それで?なぜ内側に契約者がいると?」「わからないか?俺がここに来たのは昨日だ、それまでずっと動物を見た奴がいない、精霊も動物を見なかったと言っていた・・・この辺りに悪魔の契約者が潜伏している可能性が高い」実際は静希が悪魔であるメフィを出したのは今朝のことだ、だがほかの人間にはそんなことはわかりようがない、静希が直接宿していようと収納の力で収めていようとそんなものは些細な違いなのだ問題は動物たちの変調が見られてからずっと、今に至るまで動物たちの姿が見えないという事である「もちろん確証があって言ってるわけじゃない、あくまでその可能性があるってことだ、だけど防衛ライン内の安全を確保、そして確実なものにしておくためにもこの確認は必要な事じゃないか?」静希の言葉にカールは腕を組んで悩み始める確かに静希の言っていることは理に適っている、いくら防衛ラインで外からの侵入をシャットアウトしたところですでに内側に入り込まれているのでは意味がないのだそしてカールは同時にこうも考えていた、もし外部からの侵入者がいるのであれば、そいつが情報を奪取したのではないかとここで静希が狙ったのは二つ、まず一つは先に述べたように悪魔の契約者の有無を確認する事、そしてもう一つは情報を持ち出したのが外部犯であるという可能性を排斥することである防衛ラインを作っているのだから外からの侵入者がいる可能性は低い、そして既に内部に何者かがいたのであればその何者かが犯人である可能性が高いと考えるのは当然だそして内部を徹底的に調べることで、侵入者でも、先に潜り込んでいた人間でもないという可能性を消すことで軍内部、あるいは包囲網の内側の人間の犯行であるという思考を生み出すそうなればアリバイのある静希はまず容疑者からは外れる、さらに内輪もめをしていればテオドールの部下はもはや完全に安全区域に逃げることだろう保身と時間稼ぎ、そして自らの疑念の解消、これが今回静希が狙っていることでもあったカール自身何者かが情報を奪取したという事実を静希に知らせていない以上、自分で思考するしかない、だがこうして内部を調べる口実を静希が与えてくれたのだ、それに乗らない手はないだが内部の調査をするという事は一時的にこの歪みの周囲の警戒と研究者たちの護衛が疎かになることを示唆している、それは部隊を統括しているものとしては容認しがたい「君の言うことは道理に適っている、だが少し待ってはくれないか、せめて応援が来ないと人員が足りない・・・まだ時間がかかる」「ん・・・まぁ研究者も守らないといけないからな・・・なら俺がその護衛を引き受けようか?この辺りの確認だけなら早ければ一時間くらいで終わるだろう?」周囲の索敵と敵対人物の有無の確認、それだけに徹すれば索敵手を駆使すれば一時間もあれば問題はないように思えるただ範囲が広いのと地形がネックだこの歪みだけで町一つを覆い隠すのに余りある広さを持っている、いくら全力で索敵を行ったとしても一時間で済むかは不明である「最短で一時間・・・いや二時間はかかるだろう、その間防御を担当してくれると?」「研究者を一カ所に集めてくれるならな、さすがの俺もバラバラになってる研究者全員を守ることは無理だ」いくら悪魔が突出した戦闘能力を持っていると言っても、広大な土地で広がる作戦すべてをカバーできるほどの汎用性はないこういう時には高性能の人間一人ではなく、汎用性の高い人間が大勢必要になってくるのだたった一人だけ強いものがいても戦局は変わらない、戦争や作戦は基本数が多い方が有利なのであるカールも静希の提案に乗るか乗らないかを迷っているようだった、悪い話ではない、悪魔の契約者である静希を研究者の近くにおいておけば研究者は多少は大人しくなるだろうその間に軍の八割以上を使って防衛ラインの内側を徹底的に調べ上げる、もし何かあった場合は対応すればいい悪くない案だ、カールはそう感じていたそして静希もそれを見抜いていた、軍人としてとるべき行動の順序を考えた時、カールがやろうとしているのが正しいとは言い難いだろう、だがただ一人の人間として考えた時、彼は今保身と安全を優先して考えている重要情報を何者かに奪取され、非常にあせっているのだ、いち早く犯人を見つけ出したいと考えているだろう、その中で最適とは言えないが現状では最良の案を静希が出したこの状況でどう対応するか、どう判断するか、すでに秒読み段階になっていると言っても過言ではない誤字報告を五件分、そして累計pvが18,000,000突破したのでお祝い含めて2回分(旧ルールで4回分)投稿今だいたい334万字、小説一巻がだいたい10~15万くらいだから・・・22巻分くらいの文量なのか・・・案外少ないな・・・これからもお楽しみいただければ幸いです

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カールの返答を待っていると静希の携帯が急に震えだす、相手はテオドールのようだった静希は失礼といった後でオルビアの簡易翻訳を切り通話を開始する「もしもし、どうするか決まったか?」『あぁ・・・アランが了承した、明日の対策会議にお前もついてきてもらう、今日中に対策本部のあるオーストリアの首都に向かえ』「あぁ?今日中?随分と性急だな」今日中に移動しろと言われ、静希は若干戸惑いながらも内心ガッツポーズをしていた相手の決定を急がせるという意味では別件の仕事ができたという事は非常にありがたい、相手をあせらせ、正常な思考をできなくする、詐欺師がよく使う手だ『それだけあっちもこっちもてんやわんやという事だ、とにかく伝えたぞ、空港に行ったら使いをよこしてやる』「了解、空港に着いたら連絡する・・・ちなみにお姫様も来るのか?」『当たり前だ、お守りは任せたぞ』テオドールはそのまま通話を切る、お姫様であるセラも来る、その事実だけで静希はちょっと嫌気がさしていたが、この程度であれば問題ない、まだ許容範囲だ通話を切ると静希は小さくため息を吐いた後でカールに向き合う「少尉、申し訳ないが別件が入った、今日中にオーストリアの首都に行かなければいけない」「・・・なに?どういうことだ?君の任務はまだ・・・」「今回のこと繋がりだ、どうやら上層部の対策会議に出席しなければいけないらしい、こっちで活動できるのはあと少しだけだ」先程まではまだ考えられるだけの余裕があったかもしれないが、肝心の静希がこの場からいなくなるという事を考えると本当に増援を待つ以外に方法がなくなってしまう仮にすでに内側に悪魔の契約者が潜んでいた場合、静希がその場にいないと対応ができない、なのに軍だけで対応しなくてはいけないなどとほぼ自殺行為だ内部の調査は静希がいてこそ成り立つ、さらに言えば情報を奪取した人間を探すには早い方がいい、もしかしたらこの場から逃げられることもあり得るのだ「だ、だが依頼はまだ完遂しては・・・」「上の判断なんだから仕方がないだろう、俺の方にいち早く伝令が来たがたぶんそっちにも話が行くはずだ」テオドールによって先回りの形で話がこちらにとおったが、恐らくオーストリアという国を通じてカールたちにも遅かれ早かれ話が通ることになるだろう自分ではどうしようもない上の決定、現場の人間としてこれ以上ない言い訳の材料だこれを出されては軍人であるカールはそれ以上追及できない、今追及したところで無意味であることを彼自身理解しているのだろう思考が頭の中でかき回されていく中、カールの額にわずかに冷や汗が滲むいい具合に混乱してきたなと静希は内心ほくそ笑む「少尉、決断するなら早くしてくれ、研究者の護衛をしろというなら協力は惜しまない、仮に契約者が内側にいたなら対応は俺がやる・・・少なくとも撃退くらいはして見せる」ここにきて友好的かつ協力的な姿勢を見せた静希にカールは揺れていた今ここで決断するべきだ、静希に協力を仰ぐにしろ、現状維持するにしろ静希が言っているのはあくまで可能性の話だ、静希自身も確証があるとは言っていない、だが放置するにはあまりに危険な可能性なのだそうこうしていると通信手の部下の一人がカールの下に駆け寄り耳打ちをするどうやら静希の案件が伝わったのだろう、苦虫を噛み潰したような表情をしているカールに静希はとりあえず追い打ちをかけることにした「手伝いが必要ならばこの場に残るが、必要ではないのであれば早めに行動したい、今ここで決断してくれると助かる」すでに時間は十四時を回ろうというところだ、もし今から準備してさらに索敵を行うとなると終了は早く見積もっても十七時、もしくはそれより遅くなる可能性もあるとなるともう悩んでいる時間は無い、それはカール自身理解していた「・・・ミスターイガラシ、君のデッドラインはどのくらいだ?」「ん・・・今日中に首都近くの空港に着けばいい、ここから向こうまでの移動手段に転移能力者を確保してくれるなら・・・日が落ちるまでに終わらせてくれれば構わない」日が落ちるまで、つまりは今日の行動可能限界まで動いてくれても問題ないという事であるそれならば問題はないかもしれないとカールは口元に手を当てる、いい具合に焦り始めてきた、今こうして悩んでいる間にも時間は刻々と進み続けているここで決断するか否か、部隊を任されるものとしての器量が試されているのだ限られた時間の中で何を優先するか、部隊の仲間か、それとも任務かカールが求められているのはそれに近い、少しでも危険を排斥したいのであれば静希がいる今以外に防衛ラインの内側を調べる好機はない逆にこの歪みの付近及び研究者の護衛を全うするのであればこのままの状態を維持するべきだ、応援を呼んで研究者の護衛を確かなものにしたうえで細かく調査をすれば仮に契約者が出たとしても多勢に無勢、研究者を守りきることくらいはできるだろう、無論犠牲は出るだろうがどうするその言葉が頭の中でぐるぐると回る中、カールは目の前にいる少年、静希に目を向けるこちらの判断をじっと待っている彼に研究者たちを任せるべきか、もし何かあったとしてもすぐに対応してくれるという信用するべきなのか、それともカールは悩みに悩んだ後、結論をだした「・・・わかった、君には研究者の護衛を一時的に頼みたい、我々は索敵の準備に入る、転移能力者と連絡係をこの場に残しておく、いざという時には頼む」「了解した少尉・・・研究者を一つの場所に集めるのも頼むぞ」頷いた後、カールは急いで周囲の部下に指示を出し始めた、彼は任務と安全を秤にかけて安全をとったのだ保守的な考えと言われると少々嫌な言い方かもしれないが、彼は軍人として任務を果たすことよりも、指揮官として部下を守ることにしたのだ良い指揮官だ、静希は素直にそう思ったいざという時に仲間を切り捨てるような指揮官は、優秀ではあるだろうが従いたい上官ではない、彼はどちらかというと人徳によって部隊を動かすタイプなのだろう周りの部下が何の反論もなく従っているのがいい証拠である優秀ではないかもしれないが、彼は人間味あふれるいい上司となるだろう、静希がそんな評価を下しているとは知らず、カールは指示を出し続けていた「ここからが問題だね、本当に契約者がいるのかい?」「それを確かめるんですよ・・・もしいたら・・・たぶんお二人は置いてけぼりにするかもしれません」「悪魔との戦闘になるんじゃ私たちは足手まといだもんね」契約者が静希の予想通りこの付近に潜伏していた場合、まず間違いなく静希が戦うことになるだろう相手に戦闘する意思があるかどうかも定かではないが、少なくとも追い払うくらいのことはしなくてはならない今回のことが起こる寸前に現れ、そして今もこの場にいるかもしれない契約者、そんな怪しい存在が今回の件と無関係とは思えないもしいるのなら捕えたいところではあるが、相手も悪魔を使役するかもしれないという事を鑑みると追い払うのがせいぜいだろう欲を言えば、確認できないでほしいというのが本音だ、内部に誰もいないのであればそれに越したことはない「もし何者かがいた場合はお二人には研究者の護衛をお願いします、お二人を巻き込まないように戦うのは難しいので」「わかった、俺も死にたくないからね、そうさせてもらうよ」「できることはするわ、もし何かあれば連絡する」大野と小岩も人外に関わる内容が増えたおかげか、自分にできることとできないことをしっかりと把握して動いてくれているこれで無謀にも突貫するようなことがあったら面倒極まりないのだが、そのあたりは経験豊富な大人だ、自分の分はわきまえているというところだろうか部隊の人間の呼びかけによって研究者が再び仮設テント周辺に集まりつつある、先程の攻撃の時に一カ所に集まっていたためにまだあまり散らばっていなかったのが幸いしたか、これなら早めに一カ所に集めることができそうだった後は部隊の再編成と索敵の開始だ索敵は二時間ほどを予定しているらしい、この調子なら日が暮れる前にはギリギリ終わるかもしれないこの歪みのせいで人外の気配を感じ取れないというのが一番厄介だった、これさえなければ静希が自分で動いて索敵を行うというのに町一つを覆い込むほど巨大な歪み、これを起こした犯人がどんな人間で何を目的としていたのかは静希も分からないだがこれが一体何を表すのか、その程度はわかるはっきり言って大量殺戮よりも性質が悪い、関係無関係にかかわらずその場にいただけで巻き込まれるのだまだ悪意を持って爆弾を作動させた方がましだ、なにせ爆弾ならまだ対策が練れるし何より爆発し終わった後もいろいろと手を打てるだがこれはあまりにもどうしようもない、千年近く残るかもしれないというこの傷跡を前にいったいどうすればいいのか『メフィ、邪薙、オルビア、フィア、もしもの時は頼んだぞ』自分が引き連れる人外たちに檄を飛ばしながら静希は集中を高めていく『シズキ・・・私は何もしなくてよいのですか?』トランプの中からウンディーネの声が聞こえてくる、先程名を呼ばれなかったためか、この後どうすればいいのか困惑しているようだった『お前は力がかなり弱ってるんだろ?無理して頑張る必要はない、今回は俺たちに任せておいてくれればいいよ』『・・・ですがこれは私の問題でもあるのです・・・何もしないでというのは・・・』メフィの知り合いという事もあってもう少し破天荒な性格かと思っていたのだが、どうやら随分と礼を重んじるタイプのようだ、どちらかというと邪薙やオルビアに近い性格と言えるだろう確かに四大精霊の一角が力を貸してくれるというのは非常に心強いところはある、だがそれは彼女が万全であった場合の話だ八割近い力を失った彼女は恐らく普通の精霊と同じかそれ以下の力しか持ち合わせていないだろう、それだけの力を回復させるのにはまた長い時間がかかることがうかがえる今無理をしてまた危険な状態になっても困る、さすがの静希も関わってしまった以上、そしてメフィに頼まれた以上、見て見ぬふりはできない『なら余計な手間はかけさせないでくれ、勝手に動かれるとそっちの方が困る・・・もし力を貸してもらうようなら、その時にまた言うよ』『・・・わかりました』ウンディーネは不承不承ではあるが納得してくれた、彼女自身今の自分の状態を理解しているのだろう、物分かりが良くてありがたい限りである静希のいる仮設テント付近に研究者が集められてから軍の人間は一斉に動き出していた静希の付近に連絡要員一人と転移能力者を一人配置し、それ以外の人間はすべて防衛ラインの範囲内を徹底的に調査しているようだったこれで何も見つからなければ有難いのだが、どうやらそう簡単にはいかないようだった連絡要員には定期的に無線連絡が入り、状況を知らせてくるのだがその度に緊張感が走る話によるとどうやら近くに何者かがいた痕跡は確かにあるらしいそれがテオドールの部下のものでないことを祈るばかりだが、自分の考えが的中してしまい静希の胃が痛くなり始めるのも時間の問題だった索敵を本格的に始めてから一時間ほどが経過した頃、その連絡はやってきた「ミスターイガラシ、索敵中の部隊が不審人物を発見したそうです」「そうか、そいつは今どこに?」「現在位置から北に行ったところを逃走中、悪魔を出すような素振りはないそうですが」まさか本当に不審者がいるとは思っていなかったために静希は内心頭を抱えてしまったここで動くべきか、それともまだ不審者がいることを想定してこの場に留まるべきかどちらにしろ軍で対応できるのであればそれに越したことはない「その不審者の特徴は?」「・・・えー・・・仮面をつけているそうです、恐らくエルフではないかと」エルフ、仮面をつけている、以前ウンディーネが言っていた不審者と同一人物だろうか仮にエルフだったとしても人数差で押しつぶせるかもしれないが、ここは少し強気の姿勢でいたほうがいいかもしれない「その場所に行けるか?」「問題ありません、ですがよろしいのですか?」「さっさとそいつを片付けてまた戻ってくればいいだけの話だ、大野さん、小岩さん、この場はお任せします」静希の言葉に二人は了解と軽く答えると周囲の警戒を始めた幸いにして後ろは黒い歪みがあるおかげで背後を取られるという心配がない、そう言う意味ではこの歪みは非常に有効に働いていると言っていいだろう「移動する、少尉にもそのように伝えろ、近くの部隊と連携してその仮面の不審者を捕縛、あるいは撃退する」「了解しました」静希の指示に従って部隊の転移能力者は能力を発動したどうやら彼の能力は距離に制限はあるが効果範囲内であればどこにでも転移できるタイプの能力であるらしい何度も転移を繰り返していると静希の耳に銃声が聞こえ始める「もう発砲してるのか、相手の方が先か?」「この発砲音は我々が使用している銃のものです、恐らくは警告の後に射撃したのだと思われます」すでに攻撃を開始している、周囲が森林地帯であるためにこんな場所で相手に射撃をしても効果は薄いのではないかと思える木の密度はそこまで高くはないが視認性はあまり良くない、しっかりとその目で確認するにはギリギリまで近づくか索敵によって確認するしかないだろう「・・・木の上に転移してギリギリまで近づいてくれ、間違っても落ちてくれるなよ?」「了解しました、掴まっていてください」静希の指示通りに木の上に転移し、木の葉などを隠れ蓑に何度も転移を繰り返し一気に接近していくと、静希の目にもその人物を一瞬ではあるが捉えることができた一瞬すぎてその体躯などは確認しきれなかったが、確かに仮面をつけていたように見える後方から部隊の人間が追っているところを見るとどうやらあの歪みから遠ざかろうとしているようだった悪魔も出さず、逃げようとしているのであれば自分が手を出すことはないかもしれない、だができることはするべきだろう「もう少し近づいてから上空に転移してくれ、そこから狙い撃つ」「了解です・・・高度維持はどうしますか?」「俺がやる、何もしなくていい」指示通り近づいてから上空に転移すると、邪薙の能力により作り出された障壁に乗り、静希は目を凝らす『メフィ、見えてるな?』『えぇしっかりと・・・直撃させる?』『いや、足場を狙って動きを止めるだけでいい、後は部隊の人間が何とかするだろう』この近くにはすでに数えられる程度ではあるが部隊が集結し始めている自分はあくまでフォローだけだ、手柄は軍に与えても問題はない『狙い撃つぞ、しっかり頼むぞ』『了解よ、任せておきなさい』トランプを体から出して右腕に集中させ目隠し代わりにすると、静希の右腕からメフィの腕だけが外に出てくる、まるで銃のように人差し指と親指を伸ばした射撃体勢に静希は苦笑してしまう指先に光弾が作り出されるのを確認すると、静希はトランプを動かしてさらに目隠しの効果を高くする近くに転移能力者がいるのだ、余計なものを見せるわけにはいかない勢いよく放たれた光弾はまっすぐに不審者の進行方向の足場へと直撃する丁度足を踏み出そうとしたところに光弾が直撃し、体勢を崩すことでその動きを完全に止めて見せたナイスショット、静希が内心そうつぶやくとメフィは嬉しそうに腕を静希の体の中に収めて行った足止めされ体勢を崩したすきに周囲の部隊は一気に不審者を包囲していたこれが静希の援護であるかどうかはわかっていないようだったが、相手の不利な状況を利用するという考えは染みついているらしい静希は転移能力者に指示して何とか目標の見えやすい位置に移動すると、ようやくその全身を確かめることができた黒い外套に身を包み仮面をつけた、恐らく男性、体勢を崩しているためにその身長などはわからなかったが、身体的特徴などよりも静希はその仮面に目を引かれたそれは静希が何度も目にしてきたものだった、正確に言えば、実際に見るのはこれが初めてだが、その紋様は忘れようもない、ずっと静希が追ってきたものだった「・・・あぁそういう事か・・・」「・・・ミスターイガラシ?」横にいた転移能力者は静希の変化に気付くことができた、先程まではただ相手の動きを止めるだけに専念していたその表情が、強い殺意と怒気を含めているのだ横にいるだけで肌を刺すようなその殺気を受け、僅かにたじろぐ中、静希は視線を移して小さくつぶやく「周辺の全部隊に通達してくれ、あの侵入者は絶対にとらえる、俺も前線に出る、後退しながら包囲網を形成してくれと」それだけを言い残して静希はトランプの中からフィアを取り出し能力を発動させるもはや隠しているような暇はない、あそこにいる仮面の人物を確実にとらえなければならない唐突に現れた巨大な獣に転移能力者は怯えているようだったがそんな事すら気にする余裕もなく、静希は一気に仮面の人物の前へと躍り出る目の前に出るとわかる、しっかりとみることができる、その仮面の紋様をそれは、ずっと前から静希が追ってきた『リチャード・ロゥ』の仮面だ巨大な獣にまたがった静希が唐突に現れたことで仮面の人物は若干狼狽えているようだったが、静希のその表情を見て、そして静希という人物を認識してその狼狽は僅かながらに減衰しているようだった「・・・初めまして・・・っていうのはおかしいかな?別人だったら悪いけど、ここで捕まえさせてもらう」自身の内側にいるメフィを外にだし、静希は大量のトランプを、メフィは光弾を作り出す手加減も小手調べなどもありはしない、ここで確実に捕まえるもはやメフィを隠しておくなどという状況でもない、一気に捕まえて終わらせる、そうしなければまた逃げられるトランプからは銃弾や釘などが飛び交い、その間を縫うように光弾が一気に襲い掛かった仮に相手が死のうと構わないつもりで放った攻撃は、地面を砕きそのあたり一帯に存在する事すら許さないほどの破壊を作り出していた轟音が辺りに鳴り響くなか、静希は反射的に腕を動かしていた、いや静希の目にはほんのわずかながらに見えていたのだ、だからこそ左腕を盾のように動かした瞬間、静希の体に衝撃が走り『蹴り』とばされる静希の体は何度か地面を転がり、数メートル距離を離されるが即座に体勢を整え再び攻撃態勢をとった雪奈との訓練のおかげで反射的な防御を身に着けておいて正解だった、あの一瞬で仮面の人物は回避行動をとり、静希に攻撃を仕掛けてきたのだ身体能力強化、誰がどう見てもそうとしか思えない速度で静希は蹴られた能力者だろうと予想はしていたが、よりにもよって静希が苦手とする強化系統の能力者だとは思っていなかった再び銃弾と光弾を射出するが、その危険性を相手も理解しているのだろう、周囲にある木々を盾にするように横の動きをし続け回避していくさすがに射撃系の攻撃だけではあの動きを止めることはできなさそうだった「メフィ、念動力であいつの動きを止めてくれ、できるか?」「オーライよ、任せなさい!」光弾の射出をいったん止め、メフィは能力を切り替え周囲のものを操るべく集中する動きを止めろと静希は言ったが、次の瞬間に起こったことは、止めるというレベルのものではなかった周囲の地面や木々が一斉に宙に浮きあがったのである強化系統、特に身体能力強化を得意とする能力者への対処法は、宙に浮かせることそうすることで確かにその動きを制限し、何より行動できなくすることはできるだがまさかこの辺り一帯の地形ごと浮かせるとは思っていなかっただがお膳立てとしては最高の状況だった静希は太陽光と水素カッターの入ったトランプを飛翔させ狙いを定める、手や足の一本でも失えば行動はできなくなる、まだあの仮面がリチャード・ロゥであるという確証はないが、これも仕方がないことだ、あんな仮面をつけている方が悪い太陽光と水素カッターが同時に射出され、両方が仮面の人物に着弾する、太陽光は右足に、水圧カッターは左腕に吸い込まれていった太陽光の力によって右足は焼け焦げて、いやそんな生易しいものではない、一気に炭化していた液体水素カッターの効果で左腕に穴が開いていくが、対象が動いているためか表皮に傷をつけなおかつ凍らせる程度の効果しか発揮していない、だがあれでいい、あの周囲にはすでに水素がまき散らされたそして近くには高温をまき散らしている太陽光、その結果どうなるか噴出してから数秒後、地形ごと浮いていた場所が唐突に小規模な爆発を起こす、液体だった水素が太陽光の熱で気体へと変化し周囲の酸素と反応して爆発を起こしたのだ誤字報告が五件分、そして評価者人数が355人を突破したのでお祝い含め二回分(旧ルールで四回分)投稿だんだんいつもの調子に戻ってきた、この誤字のテンポ、いつもの調子ですねこれからもお楽しみいただければ幸いです

左腕はどうかはわからないが、右足は潰した、全身を巻き込むだけの爆発も起こした、さすがに身体能力強化を保有していようと行動不能にはできただろう静希がそう確信していると爆発によって生まれた炎がうごめいていることに気付く「・・・厄介なのが出て来たわね・・・」メフィはすでにその存在を認識していた、そして数秒遅れて静希もそれを見たそこには炎を纏った動物がいた遠目であるためにどんな動物かはよく見えないが、それが四本脚で動いているものだというのが理解できるそしてその動物に寄り添うようにその仮面の人物は悠々と立っていた左腕は傷だらけ、右足は炭化し膝から先が無くなっている、すでに使い物にはならないだろう「・・・あれ・・・悪魔か?」「えぇ、それも飛び切り厄介な奴よ、私と同じ上級悪魔、能力は見ての通り、炎を操るわ」メフィの能力によって浮かされている状態だというのに、その悪魔は意にも介していない、じっと静希とメフィに視線を向け続けているどうやらまだ行動不能にはできていないようだった、いやな予感がここにきて的中してしまったと静希は歯噛みする「メフィ、強引にでもいいからあいつを押さえこむこと、できるか?」「難しいわね、静希を守りながらだとなおさら・・・いっそのことあのままにしておく?」宙に浮かせている以上人間の方が動けないのは確定的だ、だが悪魔の方はそうではないメフィと同じなら宙に浮くことも容易にできるはずだ、あの対処では動きを止められているとは思えない相手の能力は身体能力強化と炎を操ること、どちらも静希の苦手分野だ、なにせ防御のしようがない邪薙の防壁を使ったところで炎は常に流動的に動くものだ、壁を作ってもそこから回り込まれることもある身体能力強化はそもそもその動きを捉えることが難しい、静希は陽太や雪奈のおかげで多少慣れてはいるが、あのままの速度で突破されたら二度と追いつけないだろうだが逃げられる前に、静希にはやっておかなければならないことがある携帯をトランプの中に入れオルビアに指示を送り、その後で左腕に弾丸を仕込む、やるべきことはやるべきだ、この場でそれができるのは自分だけエドとカレンもつれてくればよかったと静希はこの時本気で後悔していた「メフィ、頼みがある・・・これでウンディーネの件は相殺でいいぞ」「あら、一体何をさせるつもりかしら?」「なに、あのいけ好かない奴に一発ぶち込んでやるだけだよ」宙に浮いている二人には聞こえないように作戦を話すと、その隙を利用してか相手の炎が静希達めがけて放たれるさすがに話をしているだけの余裕はないだろうかと思ったが、どうやら相手はあの仮面の男から離れるつもりはないようだった遠距離からの炎でこちらを攻略するつもりなのだろうがさすがにこちらも黙ってやられるわけにはいかない「メフィ、頼む」「・・・むぅ・・・仕方ないわね!」メフィは渋々了解して能力を発動した宙に浮いていた辺り一帯のものにかかっていた力を反転、地面に向けて強力な力を発生させてたたきつける周囲に浮いていた木々や地面も一気に叩き付けられたことで周囲に轟音が響き渡り、土煙が辺りに舞い上がる急な力の反転、そして衝撃、さらに土煙による視界の悪化に相手が反応しきれていない間にメフィは人間の方だけを静希の方向へと引き寄せた人間だけを攻撃する、それが静希の策でもある無論、相手の悪魔もそれをさせるわけにはいかなかった、引き寄せられた仮面の人物の周囲に炎の膜のようなものを作り出し、防御、さらには自らも接近しその体を守ろうとしただが仮面の男に近づくよりも先に、メフィが悪魔の眼前に直進し、思い切り殴りつける今までメフィは能力で戦う事こそなかったが、その膂力は強化状態の陽太と同じかそれ以上なのだ肉弾戦等を嫌っていたメフィにそれをさせるだけの代価はそろっている、好都合だったという事である「あーあ・・・女の子に殴らせるなんてなんてことさせるのかしら・・・まったくもう仕方ないんだから、そう思わない?」「・・・メフィストフェレス・・・!」どうやら相手の悪魔もメフィのことを知っていたようだが、すでにもう遅いメフィによって止められた悪魔、そしてメフィの能力によって静希の方へと吸い寄せられる仮面の人物だがその体の周りには悪魔が作り出した炎の膜が作られている、ただ攻撃したところでほとんどはその効果を得られないだろうだが静希は幸か不幸か、炎の相手は慣れきっているのだトランプを取り出し、静希は一気に接近していく炎と自分の距離がゼロになる瞬間、トランプの中身を噴射したそれは二酸化炭素ガス、俗にいう消火ガスと言われるものだった例え悪魔が作り出し、陽太が作り出す炎以上の高熱を有していたとしても炎は炎、二酸化炭素を噴射されれば炎は消えてしまうのだ全ての炎を消す必要はない、ほんの少し穴さえできればいいのだなにせ静希は最初から、相手を殺すことを目的にしていないのだから左腕の肘から先を外し、左腕に内包された砲身をそのわずかに空いた炎の穴に突っ込むその向こう側ではすでに仮面の人物は自らの体を使って防御していた急所だけは守ろうとしているのだろう、傷だらけの左腕を頭に、右腕を心臓部に宛がって盾にしているだが無駄だ、静希が撃つ弾丸は、それでは防げない静希が引き金を引くと、左腕から弾丸が放たれる、一発だけなら、あの防御でも防ぐことができただろう、だがそれは一発ではなかった散弾、ショットガンなどで用いられる、内部に大量の小さな玉を内包した至近距離にばらまくように放たれる弾丸まさに対生物用の弾丸というべきそれは、仮面の人物の上半身に襲い掛かった上半身めがけて放たれた散弾は偏ることなくその体に命中していく、そしてその中の何発もがその仮面に吸い寄せられ、仮面を破壊していく弾丸を放った衝撃で体が後ろに流される刹那、静希はトランプを二枚置いていった炎という特性を持っているのであれば、これは絶対に有効だ、それがたとえ悪魔の炎であったとしても静希を救出するべくフィアがその体を包み込んだ状態でその場から退避し、邪薙が障壁を発動する中、トランプの中身、水素と酸素が放たれる周囲が炎で包まれている仮面の男はそれを防ぐことなどできず、爆発に包まれることになった静希がフィアの中から出てきてトランプの中に収めてから、その爆心地を眺めると、そこには全身やけどを負っているが、いまだ健在な仮面の人物がいたいや、その仮面は八割が砕けている、そう、静希の目的はあの仮面を吹き飛ばすことだったのだ散弾によって仮面を砕き、爆風によって仮面を引き剥がす、いや『吹き飛ばす』という単純かつ簡単な方法だ仮面に守られていたおかげか、顔の火傷は少ない、そしてその顔を静希はしっかりと確認することができた「・・・ようやく素顔が拝めたな・・・お前の名前は、リチャード・ロゥで合ってるか?」仮面の下にあったのは、四十代ほどの男性だった白髪の混ざる黒髪、そして藍色の瞳、日本人ではなさそうだいや、どこの国の人間という事よりも、静希はその表情に驚かされたしてやられたという表情も、忌々しげな表情もしていない、彼はただ、楽しそうに笑っていた「そう言うお前は・・・シズキ・イガラシで合っているか?そこにいる悪魔、見覚えがある」メフィに視線を向けながら湧き上がるような笑みを浮かべるその男に、静希は強い不快感を覚えたそれと同時に確信する、メフィに見覚えがあるという事は間違いないかもしれない、メフィの姿を見たことがある人間は限られている最初に召喚した時、そして静希と戦闘した時、去年の七月の交流会にいた人物少なくとも七月の交流会にはどこにもこの男はいなかった、だとしたら、この男こそが、静希が人外と出会うきっかけを与えた張本人「もう一度聞くぞ、お前はリチャード・ロゥか?」「・・・ハハ・・・イエスと答えさせてもらおう、ではもう一度聞こう、お前はシズキ・イガラシか?」「・・・イエスと答えてやるよ」ようやくたどり着いた、ようやく見つけたこうして静希がこの男を見つけることになるとは、何か縁があるとしか思えないがそんな事よりなによりもこの男を捕まえなければならない何故この男がここにいるのか、何を目的としているのか、それは今考えるべきではない、考える事ではない絶対に逃がしてはならない、ここで確実にとらえなければすでに片足を失い、左腕はほとんど動かないだろう、全身にやけどを負っているはずなのになぜかこの男の、リチャードの笑みは止まらない「そうかそうか・・・お前がそうか・・・まったくもって邪魔な奴だ」「邪魔なのはお前だ・・・よくもまぁ俺の周りに面倒を持ち込んでくれたもんだよ」殺意と怒気を含めて静希は眼前の男を睨む、だが男は笑ったままだ、楽しそうに、嬉しそうにその笑みを見るものが見たら、静希が時折浮かべる邪笑に似ているという感想を抱いただろう、静希が不快感を覚えているのは、一種の同族嫌悪なのかもしれない「ここでお前を捕まえる、逃げられると思うな?」「逃げる?違う、間違っている、私は観測する、故に移動するだけだ、お前達はそもそも眼中になどない、いやなかったというべきか・・・」観測する、眼中にない、その言葉の意味を理解しようとするより早く、メフィが静希の前に立ち、盾になった瞬間辺り一帯が一瞬にして炎に包まれる、それがあの悪魔の能力だと気づくのに時間はいらなかった周囲に展開していた部隊の人間がどうなったか、それを確認することもできずに静希はその場に釘づけになってしまった「ではさらばだ、あぁ一つだけ伝えておこう、お前は私の敵になった、喜べシズキ・イガラシ、お前は私に認識された」高笑いを浮かべながらその場から去ろうとするリチャードを前に、静希は歯を食いしばる「メフィ!あいつを追うぞ!」「ダメよシズキ!動かないで!焼け死にたいの!?」辺りは炎で満ちている、しかも今も静希に襲い掛かろうとしているようだった、メフィがかろうじてそれを押さえているため何とか生きていられるが、恐らく一歩でも前に出れば静希は丸焼きになるだろう「部隊の人間じゃ・・・」「捕まえられないでしょうね・・・今はこの場で耐える事しかできないわ・・・」あの能力を悪魔であるメフィへの攻撃ではなく、契約者である静希への攻撃に瞬時に切り替えた静希が弱点であるという事がわかっている、戦い慣れた契約者であることは間違いない自分が足を引っ張っているという事実に静希は歯噛みしながら周囲の炎を眺める力強い炎だ、あの悪魔が作り出した炎、陽太が作る炎とはまた別の意味で力強い「メフィ、あの悪魔、なんて名前なんだ?」「・・・あいつは・・・アモン、炎を操る上級悪魔よ」アモン、その名を聞いたときにトランプの中にいた人外たちは記憶に残るものがあったそれはかつて、静希の父親である和仁が接触したことのある悪魔の名だったからだ静希はそれを知らない、なにせ人外たちと和仁との間だけの内緒話だったために知らされていないのだ「あぁ・・・くそ・・・カレンにどんな顔して会えばいいんだよ・・・」カレンはリチャードに対して強い恨みを抱いていた、こんな状況になって、まんまと取り逃がした、そんなことを一体どう報告すればいいのか、静希は大きくため息をついて項垂れたやがて火が収まると、あたりはひどい有り様だった全ての木々が炭と化し、地面は黒く焼け焦げ、もはや生き物など存在できないほどの焦土と変貌していたここに足止めされたのは三十分ほど、すでにリチャードは遠くに逃げているだろう、自分がいながらなんて様だと静希は歯噛みした「ミスターイガラシ!無事か!?」声が聞こえた瞬間静希はメフィを自分の体の中に宿らせた、近くにやってきたのはカールとその部下の人間だったこの近くで悪魔の戦闘が行われていたのを彼らは見ていたのだ、唐突に地面ごと宙に浮き、叩き付けられてから少ししたら辺り一面が炎に包まれるまるで映画のワンシーンのような凄惨な光景を前にカールたちはどう反応したらいいのかわからなかったが、とにかく炎の中心に立っていた静希を見つけ駆けつけたのだ「少尉・・・すまない、取り逃がした・・・」「あ、謝らないでくれ、我々も手も足も出なかった・・・君が包囲網を作る時間を稼いでくれたというのに・・・」少尉の認識としては悪魔の力を押さえる間に包囲網を作り完全に包囲して捕まえるというプランだったのだろうか、その間違いは静希にとっては今はありがたかった反省するのは後だ、リチャードがあの場にいたのであれば、今後の対応も少し変えなければならない、ここで彼奴に会えたのはむしろ幸運だと捉えるべきだろう「少尉、負傷者は?」「・・・何人かは意識不明の重体だ、ひどい火傷を負っている・・・幸いなのは死者がいないことくらいか」意識不明の重体になっているのだから、まだわからないだろうが、即死していないあたりは軍人という事だろう、とっさの判断で攻撃の直撃だけは避けたらしいそれなりに優秀な人間がそろっているようだったが、やはり悪魔を前にすれば役に立たないのが現状だろう「ミスターイガラシ、君がいなければ被害はもっと増えていただろう・・・礼を言う」「やめてくれ、こっちは目的を果たせなかったんだ・・・失態だよ」リチャードを捕らえることができなかった、静希が肝心なところで足を引っ張ってしまった、これほど悔しいことはないだが目的の一つは果たした『オルビア、ちゃんと撮影できてるか?』『問題ありません、ムービーで撮影しましたのできちんと顔も映っています』静希が先程オルビアに指示したのは、彼女の入ったトランプの中に携帯を入れ、仮面を砕いたらその素顔を撮影させるというものだった静希のトランプの中からは静希、あるいはそのトランプを中心にした映像を見ることができる、それを撮影させたのだこれでリチャードの顔は確認できる、そこから個人情報などの割り出しも可能なはずだ悪魔の契約者などといわれながら、結果がこのざまでは笑えないなと、静希はため息をつく「ミスターイガラシ、君は怪我はないのか?」「あぁ、こっちは無傷だ・・・それよりも負傷者の救助を優先してくれ・・・こっちは研究者たちの方に戻る」焦土と化した地面を踏みしめて静希は歩く、これほど屈辱を味わわされたのはいつ以来だろうか、自分が足手まといなのは十分理解していただからこそそれを逆手にとった行動をとり、相手を振り回すのが静希のやり口だっただが今回はそれを利用された、まるで静希がそうするかのように『すまんメフィ、お前はよくやってくれたのに、肝心なところで俺が足を引っ張った』『シズキらしくないわね、それに最低限のことはできたわ、まだチャンスはある、そうでしょ?』メフィらしくない励ましに静希はつい苦笑してしまう彼女に励まされることになるとは思っていなかっただけに今の状況が情けなさを通り越して呆れを覚えるものであると静希はようやく気付ける開き直ろう、自分は弱いのだ、自分一人で勝とうと思ったのがそもそもの間違いだったのだ、自分は誰かと一緒にいて初めて全力を出せるそのことを思い出した静希は大きく伸びをする『ウンディーネ、あの仮面の男はお前が見たうちのひとりだったか?』『は、はいそうです・・・もう片方がまだこの辺りにいるのでしょうか・・・?』確認が取れて静希はなんとなく、本当になんとなく感じ取ったもう一人の仮面の男は恐らく、リチャードのトカゲの尻尾にされたのだと要するに、今までの召喚と同じだ、手順を教え、そして召喚を行わせた、その結果がこれそしてリチャードは安全なところでそれを眺めていた恐らくはもう一人の仮面の男は、あの黒い歪みの中にいる、いやいたというべきだろうか結局自分は何もできなかったに等しい、だがまだそれでいい自分は弱いのだ、だからこそ今回の件で反省し次に活かせばいい、それができなければ自分は何の役にも立てないだろう今回の件を分析して、周囲の人間に知らせて、全力で事に当たるしかないまずはエドとカレンに報告しなければならないだろう、だがこれが最も難関だどう知らせるべきか、どう報告すればいいのか、どんな顔で言えばいいのか静希はエドとカレンの状況を知ってしまっているためにどうしたものかと悩んでしまっていた殴られるくらいは覚悟しておいた方がいいかもなと思いながら静希は大野と小岩が待つ研究者の集合地点に向かっていた誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿寒くて手が上手く動きません、キーボードを打つ指が震える・・・タイプミスが増えるかもなぁ・・・これからもお楽しみいただければ幸いです

「あ、帰ってきた・・・大丈夫かい?」「すごい音がしたけど・・・戦闘があったの?」静希の姿を確認すると大野と小岩が静希に駆け寄ってくる、どうやらここまでは炎も届いていないようで辺りはまだ森林地帯のままだとはいえ少し歩を進めれば焼け野原が広がっている、あの地域の再生は容易ではないだろう「えぇ、ちょっと面倒な奴と接触しまして・・・捕まえたかったんですが・・・」静希が戦っても捕まえることができないほどの人間、該当するとすれば契約者しか思い浮かばなかった二人は冷や汗を流すついていかなくてよかったと心底安心しているようだったが、静希の表情からしてあまりいい結果ではなかったことがうかがえる「ま、まぁ怪我がないようで何よりだ、索敵は・・・」「もう少しかかりそうですね、負傷者も多数出ています、やっぱり悪魔相手だと周りを守ってるだけの余裕はないですね」アモンという名の悪魔を操る契約者、リチャード・ロゥ彼の顔はすでに撮影した、後はその顔から個人情報を特定して全世界で指名手配するだけだ無論抜け穴はどこにでもある、調べがつくまで時間がかかるだろうが自分に今できることはした周りの人間は多く巻き込まれ、負傷者も出たようだがこの程度であったのはむしろ幸運だったと言えるだろう静希が包囲網を築くように指示していたのが功を奏したのだ、突破された一部分の人間だけの負傷で片が付いた、悪魔相手にこの状況はむしろ幸運と言えるだろうかつてエドやカレンと戦った部隊はもっと多くの犠牲が出ていた、そう考えればこの結果は悪魔戦の中では負傷者は最少かもしれない「負傷者の治療と搬送、それが終わり次第索敵再開、そして索敵が終わり次第俺たちは空港へ移動します、準備の方をお願いします」「わかったわ、じゃあ私は荷物をまとめておく、大野、ここは任せたわよ?」「了解、早めに終わらせてくれ」すぐにでもこの場を離れられるように準備を進める小岩を見ながら静希は小さくため息をつく今回得られた情報は多い、今までのようなただの召喚事件ではなく、召喚の技術を応用して作られた『歪み』そしてそれに関わるリチャード・ロゥ、はっきり言ってあの男が何をしようとしているのかは欠片も理解できないが、何かをやろうとしていることは事実だ今回も今までのように観察の姿勢をとっていたという事は、あの歪み自体が目的ではないのではないかと思える何かもっと別の、他の目的があるような気がしてならないこれまで起こしてきた事件なども一つの目的のために起こされてきたものであるような気がしてならないのだ悪魔と神格の召喚、そこからあとは悪魔の召喚のみになり、特定の悪魔の召喚まで可能にしていたその後は奇形化事件に関わる、いやそれを裏で指揮していたと考えるのが自然だろう、何を目的にしていたか、この件に関しては奇形化するための薬を作り出すことが目的だったのではないかと思われるそして今回の歪み事件、これはある意味悪魔召喚事件の続きのように思えたまだ終わっていない、続いているのだ、静希にも分からないような何かが現在静希が得た情報はリチャード・ロゥの素顔整形されていたらどうしようもないが、爆炎で仮面を吹き飛ばしたのだ、下の顔に変装を施していたとしても炎で焼き尽くされただろう、あの顔こそがリチャード・ロゥの素顔だと考えて間違いないそしてテオドールを経由して歪み発生の事前情報を掴めるだけの資料がすでにわたっているだろう、リチャードが再び歪みを生み出すために行動を起こしたとしても先に察知することができる後はその動きをいつ見せるか、そしてその場にいったい『何』がいるかである今回は静希が単独で臨む行動だったが、次からはエドやカレンも一緒に行動したほうがいいだろう悪魔相手に単体で臨むというのは危険すぎるそれにあの悪魔をいつの間に召喚していたのだろうかという疑問も残る今までリチャードは他人を使って召喚することはしても自ら召喚をするという事はしてこなかった、今回の歪みに関してももう一人いた仮面の男を使ったのだろうエドの事件の後に人が死ぬような召喚事件は起こっていないはず、ならばどうやって召喚を行ったのか悪魔の心臓に細工するにはその悪魔がもつトラウマを刺激して前後不覚状態になっている時に限られる無論人の死に対して強いトラウマを持っていない悪魔もいるだろう、そうなるとリチャード自身が悪魔を召喚したのだろうかなんにせよあの悪魔は厄介だ、強い炎で身を隠されると静希の能力では対処に限界があるなにせ静希が保有できる消火ガスにも限りがある、大量に炎を出されると身を守るので精いっぱいになってしまうのだ考えれば考える程泥沼にはまっているような感じがしたため、静希はそこでいったん考えを区切る、自分だけで考える必要はないのだ、まずはエドたちに相談するのが第一だろう負傷者の収容と索敵が終わったのは日が完全に落ちた後だった自分の失態も含まれるために、静希はその作業が終わるまで研究者たちの護衛を行い続けた「すまないミスターイガラシ、余計な時間を取らせた、何か力になれることがあれば言ってくれ」「構わないさ少尉、こちらの不手際もあったんだ・・・そちらの幸運を祈る、一つだけ頼むとしたら空港までの足を確保してほしい、限りなく速く移動したい」「了解した、うちの能力者を何人か貸そう、気を付けて」静希とカールは互いに握手を交わし、そのまま別れることになった転移能力者の協力もあり、空港に到着したのは十八時過ぎ、このくらいで済んでむしろ良かったと思うべきだろうか協力してくれた転移能力者に礼を言った後、すぐに静希はテオドールに連絡をいれた『もしもし、その様子だともう空港に着いたか』「あぁ、案内を頼む、もうお姫様はこっちに着いてるのか?」『あぁ、首を長くしてお前を待ってるそうだ、すでにホテルで待機している、すぐ迎えをよこすから少し待っていろ』そう言ってテオドールは通話を切った、向こうは向こうで忙しいのだろう、なにせ新しい情報を得たのだからそこから探知網を構築しなければいけないのだ、恐らくあちこちに連絡しているのだろう「この後また前の王族の方と会うのかい?」「えぇ、セラとその父親のアランさんとね・・・まぁ目的はその後の事なんですけど・・・」静希が今回王族であるアランと接触しようとしているのは何も交友を深めようとしているわけではない、明日行われる対策会議にて正確な情報を伝えるためなのだ何人か専門の研究者なども現れるだろうが、静希が所有する悪魔の知識には劣るだろうそこで正しい事実の認識と、情報の共有を急がせなければならない、でなければ対応が遅れるばかりになってしまう「明日もお二人にはついてきてもらうつもりなのですけど、大丈夫ですか?」「もう慣れたわ、どんな場所に連れていかれても驚かない」「王族に会うのは二回目だからね、そこまで緊張もしてないさ」思えばこの二人もかなりの場数を踏んでいる、静希に関わってからというもの奇妙奇天烈な経験ばかりしているのだ、もはやただの一介の軍人というレベルを超えているのではないかと思えるほどであるそれだけ静希が巻き込んできたという事でもあるのだが、そのあたりは申し訳ないというほかないだが同時に心強いと思うのもまた事実だ、自分以外の人間でしっかりと対応できる、あるいは動揺せずにいられるというだけでありがたいなにせそれだけ考える余裕があるという事であり、その分静希の負担が多少なりとも和らぐのだから「説明する場所について行っても、こっちは何もできないかもだけどね・・・」「まぁいてくれるだけでいいんですよ、今までの説明も含めてしなきゃいけませんし」今まで、それは静希が関わってきた召喚系の事件や奇形事件に関わる全ての事だ裏でリチャード・ロゥが関わっているとわかった以上これ以上好きにさせるわけにはいかない「・・・今回の敵は、今までのことと関係がある奴だったの?」「えぇ、以前関わった悪魔の召喚実験の元凶みたいなやつでした・・・だからこそ捕まえたかったんですけど・・・考えが甘かったですね」今後の活動を完全に断つのであれば、迷うことなく命を狙うべきだったのだ硫化水素、あるいは高速弾を用いて即座にその息の根を止めるべきだったのだ肝心なところで判断ミスをした、逃げられないように片足を潰したがそれでも逃走を許してしまったのだから一番やってはいけないミスをした、こちらのことはすでに相手は把握しているようだったが、それ以上にこちらの戦力の一端を見られたメフィが見られ、彼女のことを知っていたという事は、恐らく邪薙のことも知っていたとしても不思議はない、こちらのカードの二枚を把握されるというのは静希としては少し痛手だった攻撃の内容から静希の能力もある程度把握されたかもしれない、そう考えると頭が痛かったいや、今はそれでいいのだ、何も自分だけで立ち向かう必要はないのだと自分に言い聞かせながら静希は自らを奮い立たせる悪魔が相手という時点でエドとカレンの協力を要請しなくてはならない、静希にとって今一番のネックはそこなのだどう説明したものかリチャードと接触して取り逃がしたなどとどんな顔をして報告すればいいのか考えれば考える程に悩ましい、特にカレンにどういえばいいのかわからない本気で悩んでいると、スーツ姿の外人が静希の姿を見つけた後に近くに歩み寄ってきた「ミスターイガラシ、今からVIPの下へ連れていく、荷物はこれだけか?」「え?あぁ・・・これだけだ・・・んじゃ行くか・・・」考えがまとまっていない状態で話しかけられたせいで間の抜けた声を出してしまったが、とりあえず静希はテオドールの部下の後に続いていくことにした大野と小岩もその後に続き、用意された車で移動することになった思えば王族の人間に会うのは久しぶりだ、初めて会ったのが十月の終わりあたりだったはず、そう思うと半年以上会っていなかったことになる一体どんな成長を遂げているか、多少楽しみでもあり不安でもあった「ミスターイガラシをお連れしました」静希はテオドールの部下の案内であるホテルにやってきていた少なくともこの近くでは一番高価なホテルなのだろう、入った瞬間から自分たちが場違いであるという印象を受けたこういうホテルに来るのは実に久しぶりだなと感じながら案内された部屋に入るとそこにはかつて見たことがある王族でもあるアランと、その娘であるセラがそこにいたそしてセラは静希の姿を確認するや否や全力でタックルを仕掛けてきた「イガラシ久しぶり!」「うごふ!・・・セラ・・・お姫様ともあろうものが出合い頭のタックルってのはどうなんだよ・・・もっとおしとやかにだな・・・」しっかりと腰の入ったタックルを腹部に受けた静希は、後ろにいた大野と小岩が支えてくれたおかげで何とか倒れずに受け止めることができたが、その分衝撃がすべて静希に集約したためにかなりの痛みを受けていた「ていうか、随分背が伸びたんじゃないか?」「あらそう?私は今成長期よ?これからもっと成長するわ」子供の成長とは早いものだ、確かセラの年齢は去年の時点で十一だった、もうすぐ中学生になろうという歳だ、成長していても何ら不思議はないとっくに明利の身長は超えているだろうなと思いながら静希は子供の成長に若干の憂いを覚えていた「セラ、彼の言う通りだ、もう少しおしとやかにした方が」「久しぶりに会えたんだからいいじゃない、それに私は今だっておしとやかよ?」どの口がそんなことを言うのか静希は呆れたが、とりあえず何より先に目の前にいる王族であるアランへの挨拶を先に済ませることにする「お久しぶりですアラン・レーヴェ、先日は突然の電話失礼しました」「いや、君のおかげで大事なことをいくつも確認することができた、むしろ礼を言いたいくらいだ、テオも随分と助かったと言っていたよ」あのテオドールが助かったなどというとは思えないが、静希の行動が何かしらの形で彼を助けることになったのだろうだとしたら悪い気はしないのだが、もう少し手を抜けばよかったかなと考えてしまう今さらそんなことを考えても仕方がないなと静希は嘆息した後で、表情を変える「とりあえず、ご報告したいことがいくつか・・・それも結構重要なことで」「あまりいいニュースではなさそうだね、わかった、とりあえず入ってくれ」部屋の中に入るとその全貌をようやく確認することができた以前静希が泊まったことのあるスイートと同格か、それ以上に広い、この無駄な広さは果たして必要だったのだろうかと思えるほどの広さだ用意されている装飾も家具の類もそれぞれレベルの高いものであるというのがわかる、さすがに王族の泊まる部屋というのは特別なものなのだろう「ねぇイガラシ、貴方たちは今日どこに泊まるの?」「ん?さぁ、特に決まってないな、まぁテオドールに手配させるけど・・・このホテルは難しいかもな」なにせこのホテル、先程来た時に時折目にしたのだが何人もの警備員がいるのだ、いや警備員というよりアランたちの護衛というべきだろうか、所謂SPというべきスーツ姿の人間が何人もいるのが見えた一国の王族が泊まるホテルに静希のような危険人物を一緒に宿泊させるという事は恐らく無理だろう「えぇ・・・何よ、別にいいじゃない、ねぇ問題ないわよねお父様」「え?あー・・・どうだろう・・・まぁ・・・うん・・・」アランとしても静希の危険性自体は把握しているのだろう、同じホテルに宿泊させるという事の意味をある程度は理解しているようだった「ほら困ってるだろ、誰だって爆弾と同じホテルで休みたくないんだよ、ほらあっち行ってろ、大人の話し合いの邪魔だ」「何よ、子ども扱いしないで、私はお姫様なのよ?」「んなもん知るか・・・ならほれ、フィアを貸してやるから戯れてろ」相変わらず一国の姫に対する扱いではないような気がするが、静希はトランプの中からフィアを取り出すとセラの相手をさせるべく彼女の頭の上まで駆け上がらせるかつて気に入った小さな動物が自分の頭の上にいるとわかると捕まえようと奮闘しているが、小動物に機動力で勝てるはずもなく、丁度いい感じに戯れているようだったお子様は排除できたという事で、静希は近くの椅子に座り話をする体勢になる、それを把握したのか、アランも同じように座り、静希の声を待っていた「まずは今回の件の報告をしましょうか・・・お伝えできるのは町が一つ消えた原因、そしてあの黒い物体がなんであるか、そしてその首謀者と思われる人物の事柄です」「・・・随分と核心に迫ったことだね・・・もうそこまで調べがついたのかい?」静希が現地に派遣されたのが昨日であるというのはアランも把握しているだろう、その短期間でそれだけの情報を入手してきたという事に驚きを隠せないようだったなにせアランの国であるイギリスから派遣されている研究者でもあの黒い物体が一体何なのかも、何故あんなものが発生したのかも何もわかっていない状態だったのだ「まぁいろいろとありまして・・・とりあえず説明をしますが、その前に一つ確認したいのですが、テオドールから何か情報は受け取りましたか?」「ん・・・一応それらしいものはね・・・ただ会議の場での口外は控えたほうがいいと」「・・・なるほど、それが賢明でしょうね、現場から盗まれた情報を持っている、それだけで十分に疑われます、あくまで第三者からの情報流出という形が好ましいでしょう」テオドールとしても自らの友人が疑われるのは本意ではないのだろう、どのような形で情報を流すのかは知らないが、そのあたりは彼の手腕にかかっていると思っていい「では、簡単にお話ししましょう、まずあの町が消えた原因について・・・簡単に言ってしまえばあの町である人物が・・・恐らく『実験』を行ったのが原因であると思われます」「・・・実験・・・?それは一体何の?」アランの質問に静希は首を横に振る、静希も詳しくはわかっていないのだ、だがある程度の予測はできる「何を目的とした実験を行ったかは俺にもわかりません、ですがなぜこのようなことになったのか、それはわかります、それが先程言った、あの黒い物体の話に繋がります」「上空からの写真に写っていた黒い円のことだね、あれは一体何なんだい?」「・・・端的に、そしてわかりやすく言えば・・・次元の歪み、というものです、そもそも物体ではなく概念的なものだと捉えてください」次元の歪み、唐突にそんなことを言われてもアランの理解を超えていたのか、静希はもう少し根本的なところから話すことにした「まず、俺たちが住んでいる世界と、悪魔たちが住むもう一つの世界があります、コインの表と裏とでもいうかのように本来であるなら接触も干渉もしないはずの二つの世界・・・この二つの世界を繋げるのが、本来の悪魔召喚などに用いられる技術です」「・・・なるほど、続けてくれ」「そして悪魔を召喚する程度の小さな穴であれば問題ないのですが、世界そのものをこちら側に持って来ようとした結果、あのような歪みが生まれる・・・かつて似たような事象が小規模ではありますが発生したことがあるんです」過去にすでに一度起こっているそれが何百年も前の事であるというのは伏せるが、とりあえず今回の事態がどういうものであるかの概要を聞いてアランは口元に手を当てて悩みだす「・・・あの黒い物体・・・いや、その次元の歪みの内側にいた人たちは・・・」「向こう側の世界にとばされたか、あるいは消滅したかのどちらかでしょう、少なくともあの場にはいません」その事実にアランは額に手を当てて項垂れだすいくら自国の事件ではないとはいえ最小でも八千人の犠牲者が出たことになる、その事実をどう受け止めていいのか困惑しているようだった人の上に立つものである以上、ある程度のことは覚悟してきたつもりだが、ここまで大規模な事件が起こったとなると彼の許容量的にも限界を超えていたのだろう「あの歪みは・・・消すことはできるのか?」「・・・今のところはわかりません・・・過去の一回は小規模だったのと、それに対応できる悪魔が近くにいたため消すことができたらしいのですが、その場から失くしているだけでどこか別の場所に移しただけかも・・・根本的に消す手段は今のところは・・・」悪魔の契約者である静希でもどうにもならない、その事実にアランは頭を抱えているようだったもしあれが自国で起きたら、そのことを考えているのだろう事実あの規模の歪みが発生したら大損害などというレベルのものではない、その土地自体が使えなくなるのだから「さっき言っていた実験というのは、それにまつわる話だったという事か」「恐らくは・・・俺も犯人に直接問いただしたわけではないですし・・・直接あれを起こした人間はあの町の人と同じように歪みの中に取り残されたのだと思います」実際、あの後の索敵では不審者や侵入者の類は確認できなかった二人いた仮面の一人は逃げ、一人が行方不明、となればあの歪みの中にいたと考えるのが自然だろう「なるほど、君が情報規制するように言ってきた意味が分かったよ、こんなことが知られでもしたら・・・もし模倣犯が出たらと思うとぞっとする」「はい、ですのでこの件は絶対に外部に漏らさないで下さい、特に一般用のマスメディアに伝えるようなことは避けてください」情報というのは何もむやみやたらに真実を伝えればいいというものではないそれを伝えたことで新しい犯行を呼ぶこともあるかもしれない、不安を扇動することもあるかもしれない、今回の事のように伝えるべき情報はある程度選別しておく必要があるのだ「・・・では、首謀者の話を頼めるかい?」「・・・首謀者は今まで起きた召喚事件や奇形化事件の首謀者と同じ、リチャード・ロゥと呼ばれる人物で間違いないと思います・・・現場で遭遇し、戦闘を行いました」戦闘を行ったという言葉にアランは眉をひそめる、静希が戦闘するという意味が一体どういうことを表すのか、かつて静希が送った映像を見ているために想像できてしまったのだ「その首謀者は・・・もう死んでいるのか?」「いえ、取り逃がしました・・・相手も悪魔を連れていたため、被害を最小限に抑えるので精いっぱいでした」静希が取り逃がす、さらに相手も悪魔を連れているという事実にアランはさすがに頭が痛くなってきたのか眉間にしわを寄せてしまう面倒なことが起こりすぎているというのは十分理解できる、だがまだ伝えなければいけないことは残っている最重要ともいえる、リチャード・ロゥの素顔だ「取り逃がしはしましたが、相手の素顔の撮影には成功しました、この顔から割り出しは可能だと思います」「素顔・・・そうかそれなら個人情報を割り出せるかもしれないな・・・よくそんな状況で撮影できたね」「まぁ、ちょっとしたテクニックの一つですよ、後ほどデータをテオドールに送っておきます、個人的にも・・・リチャードには借りがあるので・・・」静希が視線を鋭くしたことで、アランは何かしらの因縁があるのだという事は理解したが、それ以上突っ込んでくるようなことはなかった触れてはいけないところというのは必ず存在する、彼はその点を理解しているようだった「この話は明日もするのかい?」「えぇ、関係している諸外国の人間にはするつもりです、信用が得られないというのなら俺の悪魔に直々に説明してもらいますよ」静希の言葉にアランは若干冷や汗を流す要するに各国の要人がいる場所で悪魔を出すと言っているようなものだ、そんな状態を容認できるはずがないのだが、納得してもらうために必要であるというのも理解できるなにせ話が突飛すぎるのだ自分たちが住んでいるこの世界と、悪魔たちが住んでいるもうひとつの世界その時点でもはや夢物語にも等しい妄想話ととられても不思議はない、だが実際にその世界に住んでいた悪魔をその場に出せばどうなるだろうかそんな次元は無いとたとえこの世界の誰が言っても、実際にその世界で住んでいた存在がいるのであれば話は変わる悪魔の証明のようなものだ、悪魔などいないと証明することは無理だが、あると証明するには悪魔を連れてくればいいだけ今回の場合は実際に起きたことを告げるだけでいいのだ、納得するか否かは相手の都合次第、より重要なのは今後同じことを起こさないようにするために各国で連携することである「今回はかなり重要で、各国の要人がいる、あまり派手な動きはしないでくれると助かる」「わかっていますよ、まぁせいぜい釘をさす程度にしておきます、それで相手が納得するかどうかはまた別問題ですけどね」各国の要人に静希が悪魔の契約者であると知らせる事、そしてその悪魔を見せるという事はそれだけで面倒を呼び込むだろう体よく利用されないようにこちらでも手を打っておく必要がある、なにせ静希は一介の学生なのだ、面倒を解決するのにも限界がある「ところで、我々・・・イギリスという国にはこのことを教えておいてよかったのかい?君としてはイギリスも警戒対象なんじゃ」「ん・・・まぁ警戒しているはしていますが、他の国よりかは接点がありますから・・・それに未来の雇い主候補もいますしね」そう言って静希はフィアと戯れているセラの方へと視線を向ける将来彼女がイギリスという国を治めるようになったら、もしイギリスという国を支配することができるのであれば、静希は約束通り彼女に仕えるつもりだった仮にそれができたとしても、きっとそれは何十年も先の話になるだろう、彼女が大人になって、現実を知って、子供ができて、そのさらに後の話だ「ほう、セラがそんなことを、君がうちに来てくれるのであれば心強いよ」「生憎その条件はかなり厳しいですよ、俺としてもつまらない人間に仕える気はさらさらありませんから」静希は悪魔の契約している、メフィと対等であると決めた以上自分よりも上の人間をそう易々と作るわけにはいかないのだなにせ静希よりも上の存在という事は、自動的に自らの悪魔もそれよりも下であると公言してしまうようなもの、自らの悪魔にそのような境遇はさせられないだからこそ静希はダメでもともと、できないであろう条件を出したのだセラが王としての気質を持ち合わせていようとも、現代社会においてその気質が正しく作用するとは限らない「ならあの子にはぜひ頑張ってもらわないとね、君が彼女に仕えてくれれば大助かりだ」「そうですね、こちらとしても楽しみにさせてもらいますよ、子供の成長は早いですから」子供の成長、アイナとレイシャと同じようにセラもすごい速度で成長していくだろうきっと自分が夢見る光景が現代ではかなわないという事を知るのも遠くない未来だろうだがそれを知ってなお夢をかなえようというのであれば、もしかしたら、そう思えてならないのだ静希とイギリスという国は、最初はよい関係とは決して言えないものだった、なにせ政府との接触当時は暗殺されかけることもあったのだテオドールとの接触がきっかけとなり、王族と関わることになり、いろいろな立場を利用して接触することは増えていた少なくとも他の諸外国よりは友好的に接しているだろう静希という悪魔の契約者、その力を利用したいものはいくらでもいるだろうだがその力は強すぎる、御しきれるようなものではないのをイギリスの政府中枢の人間は知っているのだそれ故に手出しができない、静希もそれを理解しているからこそ彼らを強く利用するつもりはない貸し借りという形での協力関係と言えばわかりやすいだろうか、イギリスは静希に大きな借りがある、どういう形であれ暗殺という非人道的な行為をしたことに変わりはないのだからだが静希はそれを直接行ったテオドールを利用しているのであってイギリスという国自体を利用したつもりはない、あくまでテオドールを使っているだけなのだテオドールがその経由でイギリスを頼ったとしてもそれは静希の知ったことではない「もうお話は終わったかしら?さすがにこの子も疲れてきたみたいよ?」セラがフィアを自分の頭の上に乗せてこちらへとやってくる、どうやら元気溌剌なお嬢さんの相手をするのは疲れたのか、フィアはその頭の上で体を休めている「ほらイガラシ!私の相手をしなさいよ!もうお仕事の話は十分でしょ」「お前相変わらずだな・・・よし、ならチェスの相手でもしてやろうか?」「私が勝てない勝負は嫌よ、ほらあっちでゲームしましょ!」まるで子供に遊んでとせがまれる父親のようだなと静希は辟易しながらセラに強引に引っ張られていくエドはこんな元気な子供と一緒にいるのかと感心しながら、とりあえずセラと遊ぶことにした静希、負けを認めない彼女の相手は非常に疲れるの一言だった「すまないねミスターイガラシ、娘の遊び相手になってもらって」セラの遊び相手となって数時間、彼女はどうやら遊び疲れたのかそれともただ単におねむの時間だったのか自然とゆっくりと意識を失っていったようやく解放されたと体を伸ばしていると、アランが労いのつもりか紅茶を用意してくれていたさすがに王族の出してくれた茶を無碍にするわけにもいかない、静希はカップを手に取り口に含んでいくホテルに用意されていた紅茶なのだろうが、それでもわずかな香りが際立つ、高級ホテルともなると用意している茶葉もいいものを使っているのだろうか、紅茶に疎い静希にはそのあたりが上手く判別できなかった「いいえ、たまにはこういうのもいいでしょう・・・あとはもう少しお姫様らしくしてくれればいう事なしですが、それを子供に押し付けるのは酷というものです」「そうだね、姫としての自覚をするのはあと五年はかかるんじゃないかな」五年、彼女が今年で十二になるという事は十七になるころ、つまりは今の静希とほぼ同年代の頃にその自覚をし始めるという事になる確かに物事の視野が広がり始めるのは中学生を超えたあたり、そしてそこから徐々に自分の立場というのを理解し始める自分だけではなく周りへの意識が強くなり、周りへの関心から自分のいる場所というのを認識し始める丁度子供から大人へと変わるころと言えばいいだろうか、彼女は徐々に大人へとなろうとしている、その変わり目がどのようになるのか今から楽しみである「一応この下の部屋を用意させたよ、君たちももう休むと良い」眠ってしまったセラをベッドに寝かせながらアランはそう言って外にいた部下に鍵を持ってこさせるどうやらセラと遊んでいる間に手続きをさせていたようだった「いいんですか?俺は悪魔の契約者ですよ?爆弾の上で眠るなんていい度胸してますね」「ハハ、むしろ君の近くにいたほうが安全だと思うよ、君がこの子を気にかけている間はね」アランは良くも悪くも、静希がセラのことを気にかけているという事を察しているようだったテオドールから任されたというのは癪だが、そう言う条件の下静希は諸外国の参加する会議に割り込ませてもらったのだ、最低限身の安全は守らなければならないだろうもっとも静希が任されたのはあくまでお守りだ、身の安全までは保障するつもりはない、そう言うのは近くにいる護衛の仕事だ「それと、ホテルのレストランも自由に使えるようにしておいた、夕食まだなんだろう?今からでも行ってくると良い」そう言えば昼から何も食べていなかったということを思い出し、静希は自分の空腹をようやく自覚する今までずっと張りつめていたために空腹自体自覚できなかったのだろう、今になって腹の虫が絶叫を上げ始めていた「お心遣い感謝しますよ、ではまた明日、何かあれば呼び出ししてください」「あぁ、そうさせてもらうよ、では良い夜を」アランの言葉を受けて静希と大野と小岩は部屋を出ていくすぐに近くの護衛が扉を閉め、巡回を始めるこの階層だけでも随分な護衛の数だ、さすがVIP中のVIPという事だろう、周りの人間の緊張の度合いが桁違いなのがわかる「お疲れ様、あの子の相手は相変わらずしんどそうだね」「そうでもないですよ、まぁ子供の相手は多少慣れてます・・・」東雲姉妹の相手をしていただけあって、子供の相手は多少心得がある、相手を一方的に負かすのではなく、定期的に勝てると思い込ませることが重要なのだわざと負けるにしても露骨な負け方ではなく僅差で負けるような接戦をすることで相手の競争による意識向上を図る、こういうやり方は静希が昔から培ってきた技術の一つだなにせ身近に雪奈のような見た目は大人だが中身は子供の姉貴分がいたのだ、一方的に勝つと不機嫌になることがある過去があったため、接待ゲームはもはや慣れたものである「それにしてもお腹空いたわ・・・この時間でもレストランってやってるかしら」「無理言ってるのであれば早めに確認しておいた方がいいかもですね・・・この時間に食うと胃がもたれそうですけど」すでに夜も遅い、とはいえこのまま空腹で眠れるかどうかも分かったものではない時差のせいで空腹の感覚も分かりにくくなっているのがなかなか苦しいところだ、意識と眠気の調整はでき始めているというのに空腹の感覚だけはまだずれているような感覚がある一日程度で時差ぼけを直せというのが無理があるのだろうか、何はともあれこの空腹は耐えがたい「とりあえず食事してから休もう、もう腹が限界だ」「そうですね、俺も同じです、それじゃ行きましょうか」静希達はとりあえず近くの護衛役の人間にレストランの場所を聞き、そのまま遅めの夕食をとることにした外国の料理だけあって独特の味付けではあったが、夜遅いという事もありあまり多く食べることはせずに空腹を紛らわせる程度の量にとどめた思えばまともな食事は久しぶりだなと思いながら出された料理を口に放り込む三人、今までずっと軍の携帯食料だったために、こういう食事はひどく懐かしさを覚えたのは言うまでもない翌日、静希達は宛てがわれた部屋で目を覚ました目を覚ましたのは自然にではなく、部屋の外からの来客を知らせるインターフォンがなったからである一体誰だと考えるよりも早く、寝ぼけながら大野が対応すると扉を開いて中に入り込む小さな影があったその小さな影は寝ぼけている静希を確認すると思い切り馬乗りになる「イガラシ!もう朝よ!起きなさい!朝食に行くわよ!」その影はイギリスのお姫様であるセラだった、今の時刻を見ると七時、確かに子供にとっては朝だ、静希も普段はこの時間に起きているのだが先日行動し続けたという事もあり疲れが若干残っていた「・・・お前な・・・こういう起こし方はレディとしてどうなんだ・・・?」若干不機嫌になりながらセラの頭を掴んで引き剥がし、欠伸交じりに体を起こすと静希は瞼をこすりながら現在の時刻を確認しようとする「朝から元気だね・・・なんて言うか・・・天真爛漫って感じだ」「とりあえず身支度だけさせろ・・・お前の相手はその後だ」「えー・・・早くしてよ?」自分も子供の時はこうだっただろうかと過去の自分を思い出しながらセラを一度追い出し、静希達はそれぞれ身支度を済ませていく布団をかぶっていたため両腕を見られなかったのは幸いだった、この両腕は彼女のような少女には少々刺激が強い軽く身支度を終えると静希達は外で待っていたセラの下へと向かう、ようやく出て来たわねとセラはどこか満足げな表情をしながら静希の手を取って移動を始める「もう朝飯か?こっちは起きたばっかりなんだけど・・・」「いいじゃない、朝はさっぱりしたものを食べて体を起こせばいいのよ、そうすればいやでも目が覚めるわ」こちらの都合など全く無視して話を進めるあたり彼女には暴君の素質があるなと思いつつ静希はセラにエスコートされながらホテルのレストランにやってくる朝食というだけあってさっぱりとしたものが多いのが特徴的なのだろうが、日本人からしたらそれでもなかなか重いやはり外国にやってきたときに一番重要になってくるのは食事だなと確信しながら静希はなれない食事を口の中に放り込んでいく「うぇ・・・イガラシ、これ食べない?私嫌いなの」「好き嫌いするな、なんでも食べられるようにならないと大きくならないぞ」「一つや二つあっても問題ないわよ、別にいいじゃない」「好き嫌いを言ううちはまだまだ子供だな・・・ほれ貸してみろ」本当に子供だなと思い返しながら静希は彼女の皿に残っているものをフォークで刺し、空いている腕で顔を掴んで強引にセラの口の中に入れていく食べさせるというよりはもはや拷問に近いのではないかと思えるほどに有無を言わさぬ行動に、大野も小岩も、近くにいた護衛も一瞬戸惑っていたこれは護衛としては止めたほうがいいのではないかと思えるほどに強引だった腕で彼女の頭を固定し無理やり口を開かせてその中にフォークを突っ込む様子は見る人が見たらすぐに拳銃を抜くようなものだったからである「うむむぐぐ・・・な・・・なにふるのよ」「好き嫌いを言う子供にはこうやって強制するのが一番だ、俺の幼馴染もよくこうされててな」強制ではなく矯正ではないのだろうかと、字体と発音に何やら語弊があるような気がしたのだが、過去実月が陽太に施した好き嫌いを直すための最終手段がこれである好き嫌いをすればこのように無理やり食べさせられるという恐怖から自然に食べられるようになるという、強引ではあるが中々に理にかなった行動だ「ほら、まだ嫌いなものが残っているじゃないか、もっと食べさせてやろうじゃないか、口を開けろ」「い、いや!食べたくない!嫌いなもの食べなくたって死にはしないわよ!」「安心しろ、これを食べないなら俺が食べさせる、これを食べなければ死ぬと思え」逃げようとするセラの首根っこを摑まえて先程と同じように強引に食べさせていく子供のお守りというにはいささか攻撃的過ぎる躾だ、先程無理やり起こされた恨みもいくばくかこもっているだろうが、子供相手にやりすぎではないかと思えてならない「もう!イガラシは相変わらず変な奴ね・・・こんなことされたことないわよ」「当たり前だ、お前の周りにいる人間は基本お前のご機嫌をうかがってるだろうからな、こちとらご機嫌伺いなんて最初からする気はない、その差だろ」ほらまだ嫌いなものが残っているじゃないかと静希はセラを捕まえようとするが、さすがにこれ以上食べさせられるのは嫌なのか、席を立って同席していた小岩の後ろに隠れてしまう逃げているつもりなのだろうが、その程度の逃走で静希から逃げようなどと甘いにもほどがある『メフィ、あの我儘なお姫様をこちらにお連れしろ』『ふふ、子供相手にムキになるなんてね・・・いいわ、面白そうだし』静希が手をかざすとメフィは念動力の力をほんのわずかに発動させセラを宙に浮かせる突如護衛対象が宙に浮いたことで周囲の人間は警戒するがゆっくりと静希の下へと移動するセラに、静希が能力を発動しているのだという風に錯覚したのだろう、守るべきなのか見守っていても大丈夫だろうかという感情がせめぎ合っているようだった「な?!イガラシ卑怯よ!こんなことするなんて」「なんとでもいえ、ほぉら美味しいぞ、口を開けろ、とっとと食え」遠慮や容赦も一切なく静希はセラの嫌いなものを次々と口の中に放り込んでいく普段自分の周りにいる人間はこんなことはしないために、セラは半分涙目になりながら静希にされるがままになっていた誤字報告を25件分受けたので3.5回分(旧ルールで七回分)投稿寒さが一気にやってきました、こたつむりになるのも時間の問題ですねこれからもお楽しみいただければ幸いです

「いやぁ、ミスターイガラシがいると娘の教育が楽になるなぁ・・・どうだい?高校を卒業したらすぐにうちに来ないかい?」「せっかくのお誘いですが、俺はまだ日本で暮らしていたいのでまたの機会にさせていただきます、しっかりとした躾はそちらにお任せしますよ」朝食を終えた後、レストランで出会ったアランは娘であるセラが好き嫌いせずに朝食を終えたという事に驚きを隠せないようだった普段は本当に嫌いなものは食べなくても怒られないのだろうか、彼女が嫌いなものを食べきったという事実は案外レアだったのだろう「うぅ・・・ひどいわよイガラシ・・・口の中にまだ匂いが残ってる気がする・・・」「好き嫌いがあるのは勝手だけど、それを残すのは容認できないな、全部食うのは作ってくれた人への礼儀だ、その所忘れるな」静希は明利が作ってくれた料理を残したことなどは無い、無論静希にだって嫌いなものの一つや二つはある、だがそれを残すという事は絶対にしない残せば明利を悲しませることにもなるのだ、そんなことは静希にはできなかった「テオドールが手を焼くのも分かる気がします、こんなお子様の相手は疲れるでしょうよ」「む、私はレディよ?お子様じゃないわ」「そう言う言葉は嫌いなものを我慢して食べられるようになってから言え、それができたら少しは認めてやる」静希の遠慮のひとかけらもない言葉にセラは反骨心を刺激されたのか半ばムキになっているように思えた子供はこれだから扱いやすいと静希は出された紅茶を口に含む、これで少しは彼女が好き嫌いをなくせるのであれば重畳だ「ところで今日の予定は?確か今日会議が行われるとか」「そうだよ、今日の午後からだね、それまでは自由にしてくれていて構わない」自由にしていていいと言われても、自分の場合セラの面倒を見ることになってしまうのだろう、どうせならこの辺りで買い物の一つでもしたいところであるとはいえ今日の会議で話す内容をある程度考えておかなければならないというのもある、やるべきことはまだ残っているのだほとんどできることは終えたとはいえ、静希にもまだできることはあるとりあえずわかりやすいようにプレゼンの準備でもしておいた方がいいかもしれない「今日イガラシ暇なのね!?なら買い物行くわよ!付き合いなさい!」予想はしていたが、当然こうなるだろう、先程の恨みを今かえさんと言わんばかりにセラは静希の袖を引っ張っている半ば強引にでも買い物に連れて行こうとする勢いである「おいセラ、俺は今日の会議に向けて資料を作っておかなきゃいけないんだ、お前の買い物に付き合ってる暇はない」「何よそんなの、後で作ればいいじゃない、今は買い物よ」買い物の後に作れるような資料であればいいのだが、そもそもこんな朝早くに店が開いているかも疑問だ、ならば資料を作ってからの方がまだ買い物の時間としては適切ではないかと思える「ミスター、貴女の娘さんはもう少しお淑やかになったほうがいいと思うのですが、その点はどうお思いですか?」「そうだねぇ、まぁ久しぶりだからテンションが上がってしまっているんじゃないかな、そのくらいは大目に見てやってくれるとありがたい」大目に見ろと言われてもとりあえず資料は作れるだけ作っておいた方がいいだろうとはいえこの我儘お姫様を放置できないのも事実だ毎度毎度フィアに相手をさせるのも気が引ける、さてどうしたものか「とりあえず部屋に戻る、大野さんパソコン持ってきてましたよね?お借りしてもいいですか?」「あぁいいけど・・・資料づくりくらいなら俺たちがやっておこうか?」「理解してる人間が作ったほうがいいでしょう、それにお二人にはこいつの相手をお願いします、ゲームでも何でもやっててください」セラの首根っこを掴んで大野と小岩の前に引っ張り出すと、静希はさっさと部屋へと戻るべく歩を進め始めた「ちょっとイガラシ!私をないがしろにするってどういう事よ」「あのな、こっちはまだ仕事があるんだ、それが片付いたら買い物にも付き合ってやるから少し待ってろ」さすがに静希がこの状態になっては自分では説得できないと判断したのか、セラは不満そうにしながらも従うことにした彼女は我儘ではあるかもしれないがバカではない、仕事があるのでは仕方がないという事も理解できるし、何より今回起こっていることで父であるアランが頭を痛めているというのも見ているのだその件に静希が関わっているというのも理解している、だからこそあまり強く自分の我儘に付き合わせることはできないという事を知っているのだ「なら仕事を見てるわ、サボらないようにしっかり監視してあげる」「サボるも何もないと思うけど・・・まぁ好きにしろ」セラとしては遊ぶよりも静希と一緒にいる方がいいのだろうどうせだからまたフィアに遊び相手になっていてもらおうと、内心詫びながら静希はトランプからフィアを取り出し頭の上に乗せる女子供には小動物の相手をさせるのが一番だ、フィアにはもう一仕事してもらおう部屋に戻りながら静希は小さくため息をつく、子供の相手は疲れるなと心底思いながら資料を作成するうえで最も問題になるのは言語だった、当然ながら日本語で書いたところで理解されないのは目に見えているそのため説明に必要な部分のほとんどは口頭で説明することにしたのだキーワードとなる部分だけ英語で表記し、それ以外の部分はほとんど絵などで構成することにしたのだが、ここで静希の絵心などが求められることになる今までプレゼンなどは行ったことがないために限りなくわかりやすいように努めたつもりではあるがどのような反応をされるかは全く不明だ大野や小岩にも手伝ってもらいながら何とか完成させたのは昼前、まさかこれほどまでに時間がかかると思っていなかっただけに誰かに説明するという事の難しさを知った一瞬だった時折セラもこうしたらいいんじゃないかと積極的に意見を出してくれたのが印象的だった、英才教育を受けているだけあって最低限のプレゼンの技術もあり、静希が一番不安だった英語などの部分もてきぱきとこなす、さすがはお姫様と褒めてやったところ自慢げに胸を張っていた「あぁ・・・こういうのは俺の仕事じゃない気がするんだよなぁ・・・」「まぁまぁ、今のところ君しか現状を理解していないんだから仕方ないんじゃないか?ここまでやればわかるでしょ」明らかに初歩の初歩の部分からの説明もあるために、はっきり言って学校の授業のようになってしまったそれもそのはず、なにせ官僚などの職に就いている人物の大概は無能力者、能力のことなど欠片も理解していないようなものが多いのだ今回の事柄に関しては少なからず能力の予備知識がある人間が集められるだろうが、それもどの程度あるかははっきり言って当てにならない能力のことを都合のいい魔法ととらえているようなものもいるのだ、何でもできるようなものだと勘違いしている人間がいる以上懇切丁寧に教え込むしか方法はないのである「無能力者向けの説明だとこんなものじゃないかしら、お姫様でも理解できるような内容にしたし」丁度その場にいたという事でセラに予行演習としてプレゼンの内容を見てもらったのだ基本的に絵を多用した内容であるために幼い彼女でも理解できたのだろう、これが大の大人に理解できるかと聞かれれば首をかしげるほかない柔軟で理解の早い子供に比べ、大人というのは頭が固いこともある、この内容で理解してくれるかどうかは全くの未知数だこの場に都合よく今回の件に関係のある無能力者がいればよいのだが、そう簡単にはいかないものだ「とりあえず完成でいいか・・・資料はどうしましょうか、英語で書くのは面倒くさいですし」資料というのはプロジェクターなどで投影するだけではなく、手元にあってその理解を深めることができる、プレゼンなどでは必ず投影用の資料と、手元で閲覧する用の資料の二種類を最低用意しておきたいのだ「最低限の情報を書き込んだもので十分じゃないかな、後は説明と質問をそれぞれさせれば最低限の理解はしてもらえるでしょ」「英語がもうちょっと達者だったらなぁ・・・もうちょっと勉強しなきゃだな・・・」静希は英語の点数が悪いというわけではないが、それはあくまで日本の学業的な意味での英語だ、日常会話や文章などに使える程の知識はないセラにそのまま書いてもらおうとも思ったのだが、彼女の場合幼いというのもあるせいで知っている単語量に不安があるのだとはいえ彼女の父親であるアランにそんなことをさせるわけにもいかない、近くにいる護衛の人間も今回の件に関わっているとも限らないためにむやみやたらに情報を流すわけにもいかない静希の所有する霊装オルビアはもともとイギリスに住んでいた人間ではあるが、彼女は数百年は昔の人間だ、言語というのは百年経つだけで全く別物になる特にここ百年で新しく生まれた言葉も多々存在する、彼女がそれらをすべて扱うようになるにはまた時間がかかるだろう今回の件で英語の再習得の必要があると感じたのだろうオルビアは英単語などを覚えなおすそうだ、もともと母国語というのもあり覚えるのは日本語以上に早く済むだろう話すだけの言語であればオルビアがその場にいれば問題ない、だが書き記された言語に関してはそれぞれの知識量によってその理解が違う、こればかりは本格的に勉強しなくてはいけないなと静希は項垂れてしまう一年以上前の自分は、日本で暮らしていれば英語など使うことはないだろうとばかり思っていた、世界の共通語が日本語になればいいなどと思っていた時期もわずかながらあるこんな所で英語の重要性を知ることになるとは思っていなかっただけに、静希は自分の英語力のなさに呆れてしまっていた「さぁイガラシ!仕事は終わったでしょ、買い物に付き合いなさい」「買い物って・・・もう昼前じゃないか・・・飯食って・・・それからすぐ会議か・・・買い物はそれが終わった後になりそうだな・・・」静希の言葉にセラは「えぇぇぇ・・・」と明らかに不満そうな声を出していたが、さすがに彼女も会議の邪魔をするつもりはないのか、自分がわがままを言っていることは自覚しているのか頬を膨らませながらもそれ以上文句を言うことはなかったまさか学生の内から仕事が忙しくて娘に構ってやれない父親の気持ちを味わうことになるとは思っていなかっただけに静希は苦笑してしまうだが今回の会議は重要だ、各国の人間に事の危険性を把握させるためにもより正確な説明が求められる、今までこんなことをしたことがなかったために静希としては非常に困惑してしまうこの場に城島がいてくれたらなとこれほど思ったことはこれが初めてだった「それじゃあミスターイガラシ、あと少しで会議があるわけだけれど・・・どうしたんだい?」昼食をかねてアランと今後のことについて話し合っていたのだが、とりあえず現段階での問題点をあげるよりも早く彼は自らの娘の変化に気付いた何やら不機嫌そうなのだ、彼はこの表情を見たことがある、図らずも約束を破ってしまったときに娘がしていた表情だ「・・・ひょっとして買い物には行けなかったのかい?」「えぇ、資料作りに手間取りまして・・・ついさっき完成したんです、そのせいで買い物に行けるだけの余裕は・・・」静希としても資料を作るのにここまで時間がかかるとは思っていなかった、完全に予想外だったとはいえ彼女との約束を破るというのもまた心苦しくあった会える機会が限られているうえにこういう状態にさせないためのお守りであったはずだ、テオドールにまた面倒を押し付ける羽目になる内心詫びながら静希は昼食を口に含んでいく、自分が口に出さないとはいえテオドールに詫びることになるとはと驚きながらも今後どうしたものかと悩んでしまうとりあえずこのお姫様の機嫌を回復させた方がいいだろう、そうでなければしわ寄せが自分の所にやってきかねない「ちなみに今日の会議は何時から何時を予定しているんですか?大まかでいいので教えていただけると・・・」「えっと・・・今日の十四時から十六時まで、移動や準備を含めると・・・食事を終えて準備したらすぐに現場に向かいたいところだね」という事は食事の後に買い物をするだけの余裕はないという事になる当然だ、集まってくるのは各国の要人、無駄な時間などかけられない、テンポよく、かつ分かりやすい説明と今後の話が必要になってくるあらかじめセラで説明の予行演習をしておいてよかったと静希は多少気が楽になるが、同時にこのお姫様の相手を何時するかという問題がある静希がここにやってきているのはあくまで任務だからだ、先日までの歪みの調査の依頼はすでに上書きされた状態になっているだろう、現在の依頼は今回の会議における説明とその対応になっているはずだ、つまりそれが終わればお役御免、日本に帰国することになるだろう「大野さん、依頼状況の確認ってできますか?」「あぁ、一応できるけど」「空き時間があるかどうかだけ確認してください、今の俺の依頼のマストオーダーと今後の予定を合わせてお願いします」依頼内容が変わっている以上静希は新しい依頼の内容を大まかにで良いから把握しておく必要がある、特に時間を作るとなればそれは絶対に必要だどんな理由があるにせよ、約束を破ったのは静希だ、非が自分にある以上ある程度こちらでカバーしてやらねばならないだろう時間をどうやって作るか、セラの都合に合わせるのが筋というものだがそこまで考えた時に静希は一つ思い出す、彼女は今学校はどうしているのだろうか「セラ、お前学校はどうしたんだ?今日とか平日だろ」「・・・お仕事に一緒に行くってことでサボったわ、いい口実でしょ」学校を公然と休む姫様というのもどうなのだろうかと思えてしまうが、どうやら父親の仕事を手伝うという名目で一緒についてきているのだろう小学生にそんなことをさせている時点でおかしいのだが、イギリスの国政がどのようなものかを静希は把握していないが、恐らく社会勉強的な意味合いで特別に許可を貰ったのだろう我儘お姫様の面目躍如といったところだろうか、父親が甘いという印象を静希は持っているために多少の無理は通せるのだろうどうしたものかと静希は悩んでしまう「さて、そろそろ移動しないと、ミスターイガラシも準備を整えてくれるかい?そろそろ移動したい」「了解です、大野さん、スケジュールの件はお任せします、セラ、お前は待ってろ、買い物の時間は何とかするから」「・・・わかった」不承不承ながら彼女は頷く、自分がわがままを言ったところでどうしようもないという事を理解しているのだその様子を見てから静希は大急ぎで準備を整えアランと共に会議が行われる場所へと移動するやはりというか当然というべきか、各国の要人が集まるというだけで建物に配備されている護衛の数が半端ではない静希が侵入するのにもまた一苦労しそうだが、今回は依頼を受けてこの場にいる、アランと一緒にやってきたことでボディチェックも最低限なもので済んでいた左腕を警戒されないあたり、やはり内蔵武器は楽だなと思い、静希は今回の件の対策会議が行われる会議室へとやってきたそこにはすでに事情を説明するために研究者や軍の人間もいた、その中にはカール・ローウィ少尉の姿も見受けられた目くばせをした後で全員がそろったことを確認すると会議が始まるそれぞれの研究機関の現状の説明ははっきり言って『何もわかりません』と言っているようなものだ、周囲の魔素の動きなどはわかっても物質的ではなく概念的なあの黒い歪みに対して現状はアプローチをかけられていないようだった「ではこの後の説明に・・・日本から派遣された能力者・・・『ジョーカー』ミスターイガラシに説明をしてもらおうと思います・・・どうぞ」その場に似つかわしくない学生の姿に、状況を把握していない人間は何の冗談だと思っただろう、だが静希のことを知っている人間も何人かいたのか、僅かに驚いている者もいた「ご紹介にあずかりました五十嵐静希です、今回の事件についての概要を大まかではありますが説明させていただきます、不慣れであるために稚拙ではありますが、どうかご清聴の程をよろしくお願いします」静希はそう前置きをしてから、準備していた資料などを用いて説明を始める、わかりやすく、基本から、何も知らない相手を想定してする説明、何とももどかしいがその点を注意しながら順序良く説明していった「以上が今回の事件の大まかな説明になります、何かご質問があれば挙手をお願いします」静希が説明を終えると、周囲の人間は一気に騒めていた、なにせまだ事件が起こって数日しか経っていないとはいえ、研究者が寄ってたかっても理解できなかったことを学生である静希が説明していたのだ無論証拠などがあるわけではない、だが静希が話した内容を聞いてその危機感をあおられたのか、各国の官僚たちは近くにいる秘書らしき人物と話し合っている「一ついいかね?それは君の推測か?それとも事実か?」「一部・・・今回の事件を起こした人物がこの歪みの中にいるだろうという事は自分の推測です、もしかしたらまだどこかに潜伏しているかもしれない・・・ですがそれ以外は事実です」今回の事件を起こしたと思われる仮面の人物、二人のうちの一人はリチャード・ロゥであることは間違いない、ただもう一人は今のところ確認できていない、その為静希が歪みの中にいるだろうという推測を出したこれはあくまで状況から判断した静希の勘だ、百%正しいとは決して言えないようなものである「それらを確証づけるデータは?先程から見ると概要的な説明だけのように見受けられたが」「これらのデータはこちらの世界ではとられていません、先程紹介した過去起こったケースというのは、悪魔のいる世界での話、まぁぶっちゃけると、情報源は俺が契約している悪魔です」悪魔からの情報、その事実に周囲の人間は騒めく悪魔などいるはずがないという反応もあれば、そんなものを信用できるのかというものもある、中には悪魔の情報ならばと信憑性が増した人種もいるようだったこの辺りはあらかじめ用意しておいた予備知識の差が出ていると思っていいだろう「その悪魔の情報とやらは信用できるのか?なにより、君が悪魔の契約者であるという証拠は?」「・・・俺の悪魔は俺には嘘はつきません・・・証拠・・・ではこの場に悪魔を呼び出しましょうか?どうなるかは自己責任でお願いしますが」静希が自分の胸元に手を当ててゆっくりと目を閉じる、これから悪魔を呼び出そうかという動作に入った時に横からある人物が手をあげる「ミスターイガラシが悪魔の契約者であるというのは私が保証します、私も、私の部下も彼の悪魔を目撃している・・・そしてその戦闘の様子も見ています」割って入ったのはあの歪みの現場にいたカールだったおおよそ人間には起こせない規模の能力の発動、それらは確かに人間離れしていた、悪魔の契約者であると確証づけるには十分すぎるほどのパフォーマンスだったと言えるだろうメフィと共同でそれらしい作業をした甲斐があるというものだ現場でそれを見ていた軍人が言うのであれば、これ以上何を言ったところで同じことを返されるだろうと口を噤むが、今度は別の人物が挙手をする「ミスターイガラシ、君の説明では、今後の対策において周囲の魔素計測による予知が可能だと言っていたな、それはどういうことだ?」「はい、詳しくはそこにいるカール・ローウィ少尉が所持している魔素計測の結果を見ていただくとわかるのですが、明らかに自然のものとは違う波形を示しています、しかも事件発生のかなり前から・・・少尉、例のデータは今ありますか?」自分から拝借させるようにしておきながらいけしゃあしゃあとそのようなことを言う静希に対し、カールは首を横に振る「先日、ミスターイガラシから情報の記された資料を返却された後、何者かに奪取された・・・犯人はまだ見つかっていない」「・・・なんですって?そんなこと俺は聞いていませんよ」確かに自分は返したぞと言いたげな表情をしたうえで静希は小さく額に手を当ててため息をつくこの情報があるかないかで説明は随分と変わる、その責任をカールに押し付けたのは申し訳なく思うが、これもまた仕方のないことだ「でしたら少尉、あの資料の元のデータがあるはずです、それを全員に開示していただけますか?」「・・・それは・・・まだ上の許可が下りていない・・・」上の許可が下りていないという発言の後、その場にいた全員の視線がオーストリアの官僚に集中するそして批難の嵐が巻き起こった、何故情報を公開しないのか、これがまた起きないとも限らないんだぞ、一体何を考えている等々、罵詈雑言の嵐だ当然だ、事前に防げる情報を所有していながらそれを開示しようとしていないのだから「ですがミスターイガラシ、この情報はまだ信頼性に欠ける、なにせ一件しかサンプルがないのだぞ、下手に開示するわけにはいかない」「そうですか、まぁ確かに下手に情報を公開して混乱を招くよりはいいでしょう・・・ではこちらはもう一つ情報を提示しましょう、この映像をご覧ください」そう言って静希はトランプの中からオルビアに撮影させた映像を流し始めるそこには炎に包まれた状態で素顔を晒したリチャード・ロゥの姿があった「これは今回の事件を起こしたと思われる人物です、こちらの未熟さと準備不足、人員不足もあり取り逃がしてしまいました・・・また今回のような事は起こると思われます、今度はもしかしたら、どこかの首都で同じことが起きてしまうかもしれませんね」犯人を取り逃がしている、そしてまた同じことが起こるかもしれない、しかもここではないどこかの国で今回は被害者は八千人で済んだ、だが次は何万、何十万という被害が出るかもしれないそのことを静希の言葉から読み取ったのか、その場にいた人間はオーストリアの官僚に強く情報の開示を求めていくこの事件はもはや対岸の火事などではないのだ、そのことを理解した官僚たちは一斉にオーストリアの人間に食って掛かった「ミスターイガラシ、先程の男の映像はこちらにも開示してくれるのか?」「えぇ、むしろこの男は全世界的に指名手配されるべきです・・・別件なのですが他にも多くの事件を起こしています、主に召喚、そして奇形関係においての容疑者です」元より静希はこの映像を各警察機関や政府関係者に開示するつもりだったリチャード・ロゥを追い詰めるためであれば静希はなんだってやる、個人情報を突き止め、相手の行動できる範囲を極端にまで限定しなければいけないのだ世界は広い、手段を選ばなければどこにだって行ける、それを阻止するためには巨大な力で抑え込むしかない、もちろん押さえこんだところでその隙間を縫っていくような人間は多々いるだがそれではだめなのだすでに被害者は八千人以上、これ以上の被害者を出さないためには多少の無茶は承知の上だだがそれでもなお、オーストリアの官僚たちは情報を開示するのを渋っているようだった信頼性や信憑性に欠ける、それを言い訳にして情報を限りなく流そうとしない腹積もりのようだ、無論その理屈は理解できる、不確定な情報に踊らされるというのは怖いだがそれはつまり他の国でまた同じことを起こしてデータを豊かにしようと言っているようなものだ「オーストリアの方たちが情報を開示したくないというお気持ちも理解します、確かにほかの国でまた同じようなことが起きれば、データも充実し信頼できる情報になるでしょう、それを待つのもいいかもしれませんね」「・・・私はそうはいっていない・・・研究者たちに検証させて・・・」「一体どれほどかかりますか?一ヶ月?二か月?それとも一年ですか?今回の容疑者は確認できているだけで一年に三回召喚事件を、奇形関係の事件は二回ほど起こしています・・・悠長に待っているだけの余裕はありませんよ」リチャード・ロゥが起こした事件、静希が関わっただけで五回の事件を一年の間に起こしている東雲姉妹が巻き込まれ、静希が人外と関わるきっかけになったメフィと邪薙の召喚カレンが巻き込まれ、家族を殺されたオロバスの召喚エドが巻き込まれ、研究者二十名近くが殺害されたヴァラファールの召喚世界各国の奇形関係の研究者の誘拐そして誘拐した研究者に作らせたと思われる薬を用いて起こされた動物たちの大量奇形化事件一年の間にこれほどまでの事件を起こし、また今回の歪みを起こした人間が研究を進めておくだけの間何もしないとは考えられなかった「・・・だがまた起きるという確証もないのだろう?」「えぇ、今回のことが最終目的である可能性もあります・・・ですがその逆も然り、また起きる可能性もある・・・この際はっきり言ったらどうですか?情報開示が惜しいから他の国の人間に犠牲になってもらおう・・・と」まぁまたオーストリアで同じことが起こっても情報がありますから防ぐことはできるでしょうしねと付け足すと、周囲の人間の視線は強くなるここはオーストリアのはずなのに、オーストリアの官僚たちが最もアウェーになっているのは言うまでもない保身のためと言えば聞こえはいいが、静希の言うように他国を犠牲にして情報開示を渋っているのだ、相変わらず静希の言い方は攻撃的で露骨だなと小岩は冷や汗を流してしまう「ミスターイガラシ、一つ提案、というか質問があるのだが」「なんでしょう」「君は今回の事象をまた起こすことはできないのか?サンプルがあれば情報も多くなる、君がそれをできるのならぜひ協力してもらいたい」このようなアプローチがあるのはある程度予想済みだ、能力者、しかも悪魔の契約者なら大抵のことはできるだろうという先入観があるのだ、こちらとしては面倒極まりない「申し訳ありませんが俺も、俺が契約している悪魔もそう言ったデリケートな内容は不得手なのです、派手に破壊するという事は得意なのですが」これはあらかじめメフィに聞いておいたことだ、メフィは次元の歪みを自ら発生させることはできない元よりメフィは召喚術さえも使えないらしい、あのような技術はエルフの専売特許、悪魔の中にはそれを学んだ者もいるらしいがメフィはからきしなのだとか「質問は以上でしょうか?でしたらこちらからの説明は以上とさせていただきますが」静希はあたりを見渡す、すでに官僚たちの目的はオーストリアからどうやって情報を開示させるかという方向に向いている静希に矛先が向かないのはありがたいことだ、無論そのように静希が差し向けたというのもあるが今のところ質問はないようだった、こうなってしまえば静希はもはや用無しだ、さっさと片付けをするべく小岩にアイコンタクトをする「ではこれでこちらからの説明は以上とさせていただきます、ご清聴ありがとうございました」静希は頭を下げた後、早々にその場から抜け出すべくさっさと片付けをした後会議室を出ていく外には何人かマスコミの人間もいたが、近くにいたガードマンに侵入を拒まれているようだったカメラに映らないように外に出るのは難しいだろうと静希は辟易する会議が終わるのを待って、外に官僚たちが出ていく隙に出ていくしかなさそうだった時間にするとあとどれくらいかかるだろうか、静希がそんなことを考えながら待つこと二時間ほど、会議は終了したのか次々と官僚たちが出ていく、その中で数人の官僚が静希の下に足を運んでいた「ミスターイガラシ、少しいいだろうか」「・・・何か御用ですか?」先程から話をしていた官僚たちが一体何の用だろうかと目を細める、自分の役割はすでに終わったのだからこちらとしてはさっさとホテルに戻りたいのだがと僅かに嫌気がさす中、官僚たちは静希に肉薄していく「君は確か学生だったと記憶している、卒業後は我が国に来ないか?」その言葉に静希は見られないように眉間にしわを寄せる、まさかこんなところで勧誘を受けるとは思ってもいなかった周りの官僚もどうやら同じことを言うつもりだったのだろうか、静希の方に視線を向けている所在がはっきりしている悪魔の契約者、しかも学生、これほど扱いやすいものはいないと判断したのだろう、こちらとしてはいい迷惑だそして何より、自分のことを悪魔のおまけ程度にしか思っていないというところが腹立たしい「君のような優秀な人間なら、こちらとしても最高の待遇を用意しよう、どうだろうか」「まて、ミスターイガラシ、それなら是非我が国に、わが国には君のような人間が必要だ」いやうちに、我が国に、どこよりもいい待遇で迎えようそんな言葉を聞くうちに静希は苛立ちを募らせていたどいつもこいつも静希を見ていない、静希の顔を見ているのにもかかわらず、その目的は静希が契約している悪魔の方を向いている外見の問題もあるのだが、日本人は基本幼く見られやすい、恐らくは扱いやすい子供だと思っているのだろうが、生憎と静希はそんな言葉に惑わされるほどバカではない「失礼、今は学業に精一杯でその後の進路のことはまだ考えられません、急いでいるのでこれで」「あ・・・ではこの後食事でもどうか?」「すいません、先約がありますので」静希はアランを見つけるとさっさとその方に歩いていく、意識を静希から別の方向に向けなくては出るものも出られなくなってしまう、ここはアランに隠れ蓑になってもらうしかないだろう「人気者だったじゃないか、いいことだ」「勘弁してください、こちとらどの国にも忠誠を誓うつもりはないんですから・・・それより、会議の結果はどうでした?情報はうまく引き出せそうでしたか?」今回一番の問題になるのはあの魔素のデータだ、あれがあるかないかで今後の活動は大きく変わる幸いすでにテオドールが情報を確保してあるから周辺諸外国に秘密裏に情報を流すことはできるが、あくまでそれは最終手段、できるなら公式で情報を開示してもらったほうがいいのだ「魔素のデータは公開するという事だった、ただもちろん各国の魔素を管理している部署にだけ公開するようにとの条件だったよ、他のデータは渡したくないらしい」「当然でしょうね、わざわざ手の内をさらすような真似をするとも思えない・・・まぁ取り越し苦労といったところですか」これで少なくともヨーロッパ近郊の国には情報が行き渡ることになる、後はそれ以外の国だ、アジアやアフリカ、アメリカにオーストラリアなどの各大陸、今のところ被害に遭っているのは日本とヨーロッパ周辺だが、そちらの方に行かないとも限らないのだ特に日本に近いアジア近郊には情報を流しておきたいところであるとはいえアジアや中東、アフリカなどには魔素観測をしていない、というかできていないところもある所謂後進国と呼ばれる場所などではそもそもデータをとっていない地域があるのだ、もしそんな場所で事を起こされようものなら止めようがない「他の諸外国にも一応注意喚起と情報規制の呼びかけをお願いしていいですか?」「もちろん、そのあたりは任せておいてくれ、時間はかかるかもしれないがしっかり伝えておくよ」こういう時に政治的に立場を持った人間というのはありがたい、話がとんとん拍子に進むアランというイギリスの王室の人間とコネがあってよかったと静希は心から安堵していたアランと話している様子を他の国の人間は面白くないような顔をして眺めているが、先約というのがアランとのことだと思っているのだろう、ここは引き下がるようだったもっとも、今回の静希の先約は彼の娘なのだが、そのことまで説明する義理は無いだろう「ところでこの後は?どうするつもりだい?」「今大野さんにスケジュールを確認してもらっています、とりあえずはセラの所に行って買い物ですかね、多少は無理してでもスケジュールをつめますよ」約束を破ってしまったからにはある程度はカバーしなくてはならない、大人が平気で約束を破るなどと子供に思わせてはいけないのだ幸いにして、今のところ認識している目標は日本に帰るだけなのだからちょっとした買い物くらいの余裕はあって然るべきであるさらに言えば今の依頼主が誰なのかにもよる、恐らくはイギリス関係の人間になっているはずだ、目の前にイギリスの王族がいるのだから多少の融通は利かせてもらいたいところである「娘のためにわざわざすまないね」「構いませんよ、子供との約束を破るのはこちらとしても心苦しいですから・・・それにこれも条件の一つですし」セラのお守りを任されたのだ、静希としてはそれを完遂しなければならない、それに静希としてもせっかくオーストリアまで来たのだ、何も買わずに帰るというのはもったいないとおもったのだ「ミスターイガラシ、少しいいだろうか」また誰かが話しかけてきた、辟易しながら振り返るとそこには先程の会議で助け舟を出してくれたカール・ローウィ少尉が立っていた「先程の情報、非常に重要性の高いものだった、感謝する」「気にしないでください少尉、こちらも助かりました、貴方のおかげでこいつを外に出さずに済んだ」自分の体を指さし苦笑しながらそう答えると、カールはそうかと言いながら薄く笑って見せたあの時カールの助言がなければメフィをその場に出していただろう、そうなると厄介なことになるのは目に見えていたメフィへの直接的なアプローチも考えられた、それを阻止できたという意味では彼が出した助け舟は静希からすると非常にありがたいものだったのだ「それと少尉、あれからあの歪みの近くに不審者は?」「今のところは確認できない、部下にも徹底させて周囲の警戒をさせている、増援もやってきたおかげで少なくとも人員は十分に足りているよ」それならよかったよと静希は安堵の息をつくこれでまたあの悪魔を連れたリチャードが戻ってこようものなら被害は計り知れないものになるだろう、なにせあの炎だ、全員かかっても止められないかもしれない自分があの場にいたという事で十分に警戒をさせることができた、恐らくまたアプローチをかける程リチャードもバカではないだろうすでに事は終わっているのだ、その後もずっとその場にいる事自体、恐らくはリチャードの癖のようなものなのだろうあの時も、東雲姉妹の時もそうだった、一週間以上も経過していたというのにリチャードはエルフの村に居続けた事後観察というものなのだろう、自らが起こした実験の結果どのような効果が得られるか、そしてその後にどんな効果を及ぼすかだがそれも危険を伴うのであれば続けるほどの価値はない、かつて特殊部隊が来ると同時に引きあげたのと同じように、今回も静希が来ることによってその危険性を察知させた、恐らくもうあの場には戻ってこないだろう「それにしても、君は随分とお偉方に囲まれていたな」「あぁ、熱烈なアプローチを受けたよ、こちらとしてはいい迷惑だ」アプローチを受けたところでそれが静希に対してではなく静希の連れる悪魔に対してのものなのだから静希からしたら嬉しくもなんともないむしろあれだけの人間がいて誰も自分に目を向けていないという事実に苛立ちさえ覚える始末である「求められるというのはそれだけ君の実力を買っているという事だろう、うらやましい限りだ」「なんなら代わるか?それともお偉いさんみたいに勧誘でもするか?」静希の提案にカールは僅かに口元に手を当てた後首を横に振る、少し残念そうな表情が静希には印象的だった「いいや、やめておこう、恐らく私では君を御しきれない、それに君は誰かの下につくようなタイプの人間ではないように思える」カールのその言葉に静希は僅かにではあるが驚いた、ほんの少しの時間しか行動を共にしていないというのに、彼は静希の後ろにいる人外ではなく、静希をしっかりと見ているそしてそれを見てなお、静希は自分の下にいる人間ではないと判断したのだなるほど、どうやら人望があるだけではなく、人を見る目も備わっているようだ、部下たちが信頼するのも頷ける話である「さて、あまり長話をしても迷惑だろう、私も仕事がある、これで失礼させてもらうよ」「あぁ、気を付けて、まだあそこが安全とも言い切れないからな」カールはそのまま軽く敬礼をした後静希に背を向け歩き出す、恐らく彼はまた現場に行くことになるのだろう、研究者の何人かの護衛も引き受けていたためか、近くにいた研究者とこれからの行動を決めているようだった「彼が現場を指揮していた人間かい?」「えぇ、カール・ローウィ少尉、なかなかの人物ですよ、良い指揮官です」静希が珍しく褒めちぎっていることにアランは驚いているのか、少しだけ目を丸くしていた静希が人を褒めるというところをそもそも見たことがないというのもそうだが、悪魔の契約者である人物にそこまで言わせる彼に少々興味が出たようだった「ふむ・・・君よりも彼の引き抜きを考えるべきかもね」「ふふ、そのあたりは好きにしてください、少なくとも俺の引き抜きは厳しいと思いますよ」静希は今のところどの国にも属するつもりはない、唯一将来静希を雇うという約束をしているのはセラただ一人だそう考えると、彼女の一種のカリスマ性がうかがい知れるというものである、どこか放っておけないというか、従いたくなるような不思議な感覚があるのだエドのそれとはまた別、そして自覚はしていないが静希が持っているそれともまた別なものである「ハハハ、君の引き抜きは娘に一任している、あの子に任せておけば問題はない」「そうですね、こちらとしても楽しみにさせてもらいますよ」子供の成長が楽しみだなんて、エドの父性が移ったかもしれないなと自嘲気味に笑いながら静希はセラの成長を心待ちにしていた、いつか彼女に首を垂れる日が来るかもわからない、そんな未来が少しだけ楽しみだったアランや他の議員が外に出るのに紛れて何とか会場から脱出した後、静希は宿泊しているホテルへと向かっていたその途中、同行していた小岩に連絡が入る、どうやら大野からの連絡のようだった「大野さんですか?」「えぇ、今日のスケジュールの確認ができたみたい、明日の昼の便で日本に帰ることになりそうよ・・・」オーストリアから日本に帰る場合、時差の八時間に加えて飛行時間の約十二時間を換算しなければならない、おおよそ二十時間後の日本に到着することになる例えば十三時の飛行機に乗った場合、日本に到着するのは日本時間で朝八時になる計算である向こうに到着するのが八時、手続きをして空港から学校に移動するのに一時間か二時間かかるとして城島に報告できるのは十時以降になりそうだったその日の時間割はどんな感じだっただろうかと思い出しながらも、静希はとりあえず安堵するこれならば今日一日と明日の午前中は買い物に回せるだろう、帰りの飛行機が遅くなったのは大野の計らいだろうか「それなら買い物くらいはできそうですね、お二人も好きなように買い物をしても問題なさそうです」「それは嬉しいわね、いろいろ見てみたいところあるのよ」小岩としてもせっかくオーストリアまで来たのだ、見てみたいところもあるのだろう、かなり楽しみにしているようだった静希も買い物ができるというより土産を買わなければならないという意味では買い物はある意味マストオーダーだ、せっかくこんなところまで来たのだから買い物くらい自由にしたいものであるもっともその買い物にはお姫様という護衛対象がいる事になるが「とりあえずはセラの所に行ってちょっと遅めの買い物をしましょうか、ついでにどこかで夕食も」「そうね、結構遅くなっちゃったし、会議っていっつも予定より延びるものなのよ」大人になると会議をすることも多くなるだろう、そう言う意味では小岩は会議が延びることなど慣れっこらしい静希もきっとこれから同じことを味わうようになるのだろう、まだ学生だからこそ必要な時にしか呼ばれることはないが、今後は必要でない時にも同席を求められることになるそう言う意味では正直鬱陶しくもあるが、それが社会というものだ、役に立てるかどうかではなく体裁というものも気にしなければならない特に軍にはいる事になれば上下関係は明らかに重要なものになるだろう、全く面倒なものだと思いながらも静希はため息を抑えられなかったホテルに移動し、セラのいる部屋へと向かうと、彼女はベッドの上で不貞腐れていたあぁやっぱりという感じが否めないが、子供としては一人待たされるのは暇なのだ近くにいた護衛の人間が若干やつれたように見えるのは、恐らく彼女の遊びに付き合わされたのだろう、申し訳ない気持ちが湧き出てくるが、ここからは自分の仕事だ「セラ、仕事は終わったぞ」「・・・あらイガラシ、本当に終わったの?もう仕事はないの?」どうやら仕事という言葉を免罪符にして自分から逃げているのではないかと思い始めていたのか、それともまた仕事があると言って逃げられるのではと疑っているのか、彼女の目には若干の猜疑心が見られた子供らしいというかなんというか、これはこれで彼女らしいというべきなのだろうか「あぁ、俺のやるべきことは全部終わった、後は明日の昼に帰るだけだ、それまでは暇だよ」その言葉にセラは一瞬反応するが、どうやらまだ嘘ではないかと疑っているようだった随分と疑り深くなってしまっているなと思いながら静希は彼女の下へと向かう「今から店が閉まるまで、後明日の朝から昼まではお前の買い物に付き合うよ、だから機嫌直せ」静希の言葉にようやく嘘ではないという事を理解したのか、セラは体を起こしすぐに動き出したどうやら時間が限られているという事を察知したのだろう、現在時刻は十七時、主要な店が閉まるのが二十時だとすると、夕食を含めればそんなに時間は無い「イガラシ、すまないね、娘の我儘に付き合わせて」「構いませんよ、ようやく俺も気が抜ける、夕食は適当にそのあたりの店でとろうと思っていますが、貴方もどうですか?」「いや遠慮させてもらうよ、私がいると君が余計な気を遣ってしまうだろうからね」静希がアランに多少気を遣っているという事をわかっているようだった、それにせっかく娘が楽しそうなのだ、その邪魔をするのも忍びないと思ったのだろう王族でありながらいい父親だなと思いながら静希はセラの方を見る本当に楽しそうにしている、子供ならではの元気っぷりだ「護衛の方はどうしようか?あまりうろうろしていると邪魔だろう?」「俺の方にもついてはいますが・・・数人遠巻きに配置しておいてください、万が一がないとも限りませんので」一応静希が周囲を警戒するとはいえ、彼女は一国のお姫様だ、万が一があっては困るのだ仮に狙撃されても恐らく邪薙が気付いて防御してくれるだろうが、そんなことをさせないためにも護衛は必要だせっかくあんなに楽しみにしてくれているのだ、無粋な真似はさせたくないと静希はそう思う、少しずつ子供が大人になっていくように、少しずつ静希も大人になってきているのだ静希は自分の行動を深く後悔していた、こんなことならすぐに日本に帰ればよかったと今までの不満が爆発するかのようにセラは静希を引き連れて買い物やら遊びやらであちこち連れまわした子供のエネルギーと体力は恐ろしい、大人のそれと違い自分の中の燃料が空っぽになるまで動き続けられるのだ、そもそも自分の体力の底というものを認識していないというのもあるだろうが、それにしても恐ろしいまでの行動能力である静希の体を引っ張って買い物をし続ける様に、さすがの静希もまいってしまっていたそして静希の後ろから護衛し、荷物持ち代わりになっていた大野と小岩も、遠巻きに護衛している人間達も若干の疲れが見える、ようやく休めたのは彼女との買い物を一旦終わらせ夕食をとっている時だった「んん・・・今日はこのくらいかしら、明日は別の場所を回りましょ」「お前あれだけ買ってまだ買うつもりかよ・・・一体何をそんなに買ってるんだか・・・」浪費癖というわけではないだろうが、彼女は自分が欲しいと思ったものは迷うことなく購入していく、その度に静希にどうだろうかと意見を求めてくるのだ静希も別に嘘を吐くつもりもおだてるつもりもないために正直な意見を言うのだが、彼女からするとそれが嬉しいのだろう、たまに似合ってないとはっきり言うと残念そうな表情をするが、それもまた彼女にとっては楽しみになっているようだった「いいじゃない、せっかくイガラシと買い物できるんだから、今まで待たされた分しっかり買い物するの」「・・・はぁ・・・俺にはこの辺りの価値はよくわからん、日本のものに慣れ過ぎたかな・・・」静希もいくつかの食品や物品を購入したが、静希にはどれもあまり良いものとは思えなかったのだなにせ日本の商品に慣れ過ぎたために、こういったものは物珍しさしか覚えないのである無論物珍しいからこそ買うというのもあるのだが、それが正しいのかは甚だ疑問である「日本のものってそんなにいいものが多いの?」「いいものかどうかはわかんないな、俺がそれに慣れてるってだけだし、買い物とかしててもどれがどういうものか、必要かそうじゃないかとかすぐにわかるしな」こっちのはよくわからんと言いながらセラが買った物品の一つを手に取って眺め始める置物のような人形のようなよくわからないものだ、彼女がなぜこれを欲しがったのかは全く不明である「そう言えば私日本っていったことないわ、どんなところなの?」「どんなところって・・・んんん・・・どう説明すればいいんだか・・・まぁ土地が少ないから都心に行くと高い建物が多いな、後は電車の遅れがほとんどない、それに漫画とかがすごくよく売ってる」「コミック!私も日本のは時々読むわ、でも有名なのしか売ってないのよね」国外でも売っている漫画というと本当に有名なものに限られる、それだけ翻訳などに手間がかかるのだから仕方がないと言えるだろう日本で販売している漫画の数はそれこそ星の数ほどある、出版社でさえ静希も把握しきれないほどにあるのだ大手のものであれば静希も知っているが、それ以上のことは全く分からないの一言である「中には漫画だけで店が一つ埋まるところとか、漫画を読むためだけの店もあるからな、そう言う意味じゃ日本はそう言う創作物にあふれてるよ」「漫画を読むためだけの店・・・ちょっと想像できないわ、それ儲かるの?」「多分な、一度本を買えばあとはそれを商品にして図書館みたいに読ませて、後はその時間で金をとる、なんていうか日本らしい商売だと思うよ」漫画喫茶などが他の国にもあるかは疑問だが、あれは一度本を購入してしまえばあとは土地と飲み物、建物などの必要経費、そして人件費以外にかかるものがない、そう考えると楽な商売と思われるかもしれないが、いろいろと面倒はどこにでも起こるものなのだ「あ、そうだ、あと何だっけ・・・メイドカフェ?にもいってみたいわ!本物のメイドさんがいるんでしょ?」「お前お姫様だろ?メイドの一人くらい雇ってないのかよ」「あぁいうお手伝いさんとは別でしょ?あれはあくまでお手伝いさんなんだから」どうやらセラの中ではメイドとお手伝いさんとは全く別のものらしい、本来はセラのような高貴な人間の身の回りのことをするのがメイドであって、日本の喫茶店などで働くあのメイドは一種のパチモンなのだが、恐らくその違いは彼女にはわからないのだろう「そう言えば俺もあぁいう店には行ったことがないな・・・なんか敷居が高いような気がするんだよ」「へぇ、やっぱりそれなりに高級なお店なのね」「いや・・・それはどうだろう・・・」あの類の店のメイドは忠誠心などは欠片もない人種がそろっているような気がしてならない何より静希は自分の剣がメイド以上に優秀なのだ、そもそもそう言う店に行く意義が感じられないのである「一度でいいから日本に行ってみたいわ、ロボットとかいるの?」「いやそれはさすがにどうだろう・・・ていうかお前が言えば多少の無茶は通るんだろ?まぁ護衛とかがつくだろうけど」そうなんだけどとセラはつぶやくが、やはりいろいろと柵が多いようだった、なにせ彼女は王族の人間だ、静希のように呼べば来られるような一学生とは違うのだ「まぁお前がやろうとしたら止められる人間の方が少ないだろうよ、他に大人もいる、体よく利用するってのも手かもな」「ふむふむ・・・参考にしておくわ」あくまで子供の行動の限界というものもある、静希からすれば冗談の一つでしかないが、セラからすれば大冒険の第一歩になるかもしれないそう考えるとこの言葉を言ったのは早計だったかもしれないなと、静希は若干後悔していた誤字報告を35件分受けたので4.5回分(旧ルールで九回分)投稿大魔王からは逃げられない、やはりこうなったかこれからもお楽しみいただければ幸いです

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童心に帰るように笑顔が絶え間なかった

 バザガジールは自分の影を相手に一切怯むことなく、攻め続ける

 そして相手をしていくうちにこれを理解した

 この影は自分を模倣していること

自分の移動速度、攻撃速度、反応速度、癖になっている動きまで全て模倣されており、この影分身達は正確に全力で向かってくる

 自分はよく恐れられる存在であることから、これほどまでの真っ直ぐで純粋な敵意は心地良かった

 昔を思い出す

 更に心躍ったのは、その状況を作ったのが、リリア・オルヴェールであったこと